足腰が不自由になり、現在、短期で介護施設にご入居されている方が、自宅を抜本的に改修して自宅にお戻りになる準備のための改修工事を行わせていただきました。介護改修というのをイメージすると、単なる段差解消や、廊下幅を広げる、手摺をつける。といった内容を思われる方も多いかもしれませんが、居住スペースとして必要になることは、安全性、利便性、快適性であって、段差解消などは単なる「手段」にすぎません。
この事例は、1階の和室続き間を現状で介護ベッドをいれてお使いの部屋なのですが、問題点として以下のようなものがありました。
・和室の床は廊下等よりも高い(段差がある)。
・畳の床のため、歩行器などでの移動の際、沈み込みなどの難がある。
・エアコンが設置されているが、特に暖房が効かない。
・トイレまでが遠い。
・浴室、脱衣場が寒い。
というものです。そして何より、予算があまりなく、低予算(300万程度)でできるだけのことをやりたいということでした。何社かでご相談されていたようですが、どれも段差解消がメインの提案でしかなく、かつ、工事費も予算額の倍以上のものであることから、相当悩んでおられました。もちろん、これらの経費については、いわゆる「子世帯」が負担することが多いわけで、同居しているのであればまだしも、親世帯だけで住まいをもっている場合には、後々のことまで考えると多額の費用をかけるわけにはいきません。よって、安全性、運用面の利便性などを踏まえて、「今あるモノを有効に利用する」ということが最重要課題となります。
今回検討したことで、重視したのは、段差解消をどんな形で実現するか?なのですが、
画像に見られるように、現状でもところどころに、段差解消を行うための「擦り付け板」の設置がございました。また、日常生活で動き回るであろう、同上の画像の床板の傷みがあり、合板床板特有の「ふわふわ」感もあったので、この床の上から床板を張り増しする形で床補強と、「擦り付け板」の勾配、厚みを薄くすることにいたしました。そうすることにより、既存和室への出入口の建具を取り換えるようなことをせずとも、段差を緩和することとしました。
次に検討したのは、歩行器による移動を円滑にするという視点で畳の床を板張りにすることと、歩行器が利用される動線に関しては壁面への接触が懸念されるので、塗り壁面に羽目板を上張り施工し問題を解消しました。
トイレは、既存のトイレを改修するのではなく、「床の間」であった部分にトイレを作り、廊下を使ってトイレにいくような動線はやめにしました。
トイレ内の手摺については、介護施設からご自宅にお戻りになる際に、ケアマネジャーたちと相談して、手摺設置場所や形状を相談してからの対応となります(あくまでも、ADL(日常生活動作)の状況を鑑みて取り付けることが鉄則です)。また、トイレについてはよく「車椅子で入れるように」というご要望をいただきますが、それを実現するために、幅の大きなトイレなどを提案する設計者がいますが、現実問題として高齢者が介助なしで車椅子でトイレに入れるわけはありません。できるだけ、自分の力でトイレにいきたい(人の世話にできるだけならない)という思いを実現するためには、トイレ動線が短い(この例のように部屋付けにする)ことと、出入口が大きく開くこと、そして、つかまり立ちできるようにするための手摺の設置、が必要になります。また、ADLが低下してしまった場合には、トイレに自力で通えるレベルではない場合には、今度は排泄介助のための洗浄などのための「水場」などを併設したほうがよいのです。
室内の温熱環境については、1階であることから、夏場の暑さよりも冬の寒さのほうを重視しました。
壁面を解体しての工事はコスト的に無理と判断し、天井面にSDN-SHEETを張り、熱を上階に逃がさないようにしました。また、設備機器の設置を行い、
浴室・脱衣場に換気暖房乾燥機を、和室であったところは、2部屋の広さをカバーできるエアコンを設置しました。
改修はこれで終了というわけではなく、ご入居はゴールデンウイークを目途にしてらっしゃるようで、生活しながら不便さを感じたら随時手を加えるという形にして、快適性を追求していきたいと考えています。
今回の改修では、壁・天井面に、福井県産材である「杉羽目板」を使い、「令和5年度 県産材を活用したふくいの住まい支援事業(リフォーム)」の補助を受けております。