実は結構な割合でこうした文言を目にすることがあります。それは、
耐震改修工事を行うと、その建物は構造関係規定に準拠しているものと同等であると判断する。
要するに、旧耐震基準での建物を耐震改修工事を行うことで耐震性に対しての問題を解決できれば、それは新耐震基準である現行の建築基準法に準拠できているという判断をするというものなのですが、これが完全にあっているか?というとそうでもないところを気が付いていない設計士さんや診断士さんはかなりいます。
でも、よく考えてほしいのは、耐震性というのは、建物に横からかかる揺れの力=地震時水平力、に対抗できるような構造的な仕様になっているか?という部分の性能なのですが、同じ水平方向からかかる力というのは、「風」によるものもあるわけです。
一般的な考え方として、地震に対する抵抗力は、床面積に対して一定の係数をかけることで必要な抵抗力を割り出すことができますが、これは床面積が大きければ、それだけモノを載せる部分が多くなるのと、それらをつくるための材料も増えるわけで、結果として建物がもつ「重量」が大きくなり、建物に採用する「力」が増大するという物理法則から来ています。いわゆる、
F=ma (mは重さ、aは加速度。地震の時は重力加速度)
ですので、mが大きければFは大きくなるというわけです。そのFに対応できるだけの筋交いなどの耐力壁が求められるのです。で、これが「地震力に対する検討」と言われている項目です。耐震改修工事は、この地震力に対する性能を、最低でも現状の建築基準法が想定しているレベルまでもっていくことを目的としています。
ところが、水平力としては、地震力からくるものだけでなく、風によるものもあります。暴風雨などですさまじい風が吹けば、その風は建物の外壁面を押します。外壁面を押すわけですので、当然、外壁面の面積が大きければそれだけ大きな力を受けることになります。
ところが、耐力壁が大事だ!と語り地震力に対する抵抗を強化するということを気にしても、風に関する抵抗を強化するということを語る方はあんまりいないのです。これには理由があって、耐力壁の「量」を決定する場合には、大半が「床面積」による評価、即ち、「地震力に対する評価」のほうが「風圧に対する評価」よりも多くの壁量を要求する結果になることが多いからです。
地震力に対する壁量 > 風圧力に対する壁量
というのが、一般的な木造住宅の間取りだと、こうなることが多いです。
ですが、実はそうでもないときがあるのです。なんかいい事例はないかなと探したら出てきましたw
必要壁量は、面積×係数で求められます。ですので、地震では床面積なわけで、風では外壁面積なわけです。掛け合わせる係数によりますが、外壁面積がかなり大きくなると、先ほどの関係が逆転します。

画像の事例の場合、長細い建物で、その外壁面積により風圧力に対する壁量が地震力に対する壁量を上回ります。このような建物の場合、耐震性をアップさせた耐震改修工事を行っても、暴風が吹けば倒壊はせずとも、建物の変形が進み、外壁が破損するなどの被害がでる可能性があります。
建物の強度を考える上で「耐震性」だけが要素ではないということを知っておく必要があるのです。