基礎にまつわる「変な説明」というか「都市伝説」みたいなものを披露する「#6」ですw
今回も、株式会社M’s構造設計 代表取締役社長の佐藤実先生がSNSで話題にした内容で、わかりやすいイラストをお借りしますw もはやテンプレのご挨拶になりますが、毎度毎度すみませんw
◎株式会社M’s構造設計
さて、今回は、次のような内容を取り上げたいと思います♪
【誤解6 ベタ基礎は地盤の食い込む楔(くさび)効果がある】
基礎の外周部を掘り込んでいる状況をお客さんに見せたり、近所の方が、その様子を見たりして現場で指揮をとっている監督さんや、たまたま来てた設計士さんに、「なんで廻りを掘るの?」ってきいたとき、次のような説明をしちゃったりする人がいますwww
基礎の外周部にはハンチをつけるのですが、これが楔状になるので地盤に食い込み、地震の際に横滑りするのを防ぐ効果があります!なので、まったくハンチがない基礎は地盤上を滑りますので危険です!
えと、もう、こんなことゆう人は技術者を名乗らないでいただきたいです。少なくとも、住宅レベルで付けられるハンチなんてのは、150~300が関の山。こんな突起物が地震の時作用する水平力に抵抗できるほどの性能があると思う方がどうかと思います。っていうか、ちょっと自然の力を舐めてません?って感じです。
つまり結論を言えば、「楔効果なんか、ねぇよ?www」ってことですw
ハンチってどんなのというと、こんな感じのものです。
べた基礎の外周部を掘り上げることで、少々斜めにカットして整地して、ご丁寧にそのくぼみの部分にまで「ハンチ筋」というものを編み込んだりします。このくぼみの部分をハンチというのですが、これが地震の時の水平力に抵抗して建物が横滑りするのを防ぐ、っていう話しです。
そもそも論、この説明を行う人は、基礎工事における土工事を理解していないのと、正確に基礎の構造を理解していない証拠です。
一般的な木造住宅の基礎の外周部の断面というのは、以下の1枚目の画像の形状をとります(あくまでも一般的なものです)。
横から飛びついている板状の部分を「べた基礎(耐圧版)」といい、上下に長細い部分は「基礎梁」といいます。2枚目の画像の赤い部分が基礎梁の部分です。そして、この基礎梁は、上からの建物荷重を受け取りますが、それをべた基礎(耐圧版)に伝えて地面に力を逃がしています。
つまり極端に言えば、わざわざこんな斜めの部分を作らなくても、3枚目の画像で示す赤い部分のように、T字型につくってもの問題ないわけです。また、構造計算で基礎の鉄筋コンクリート造を計算しても、ハンチ部分を考慮することはありません。3枚目の画像のような形をモデル化して計算します。
では、なぜハンチをつくるのでしょうか?
「畝(うね)」ってご存じですか? 家庭菜園などで「畑」とかを作ってる方ならわかると思いますが、以下の画像のようなものです。
これは「畝立て」という作業ですが、このとき、土を斜めに盛り上がるようにつくりますよね?あれって、なぜそうするか?というと、土を切り立てると崩れるから斜めに擦り付けるんですよね? もっと他の例だと、土を運んできたダンプが土を降ろすとどうなるか?というと、傾斜のついた山になりますよね?
土を扱う人なら常識的にというか、本能的にわかってるのは、土が切り立った状態だと「崩れてしまう」ってことです。なので、斜めに擦り付ける、あるいは、自然と斜めになる角度にしておくわけです。これを土の「安息角」といいます。
前置きがすごく長くなったんですが、基礎のハンチというのは、基礎梁を地中に埋めたいときに、基礎梁の幅で掘り上げると、150~300mmとはいえ、掘った部分の土が崩れてしまうので斜めに擦り付けるだけで、その結果がハンチ形状になるからという理由にすぎません。
土が崩れなければハンチなどは全く必要はないわけで、例えば、ちょっと規模の大きな建物になると、こんな感じで基礎を作っています。
これは、地中梁というものですが、ここまで大きな基礎の梁になりますと、ハンチをつけるという発想の前に、型枠や鉄筋加工の作業スペースを確保するために土を掘るわけで、時には「矢板」と言われるものを打ち込んで土を崩れないようにしたりもします。
基礎工事は、一般的な木造住宅においても「土木工事」の発想や経験が必要です。土に対する対応というのはすごく重要で、この部分の理解や知恵がないと、工事中に思わぬ事故を起こしたり、あるいは、基礎自体の形状を損なうような工事になったりします。一般的な木造住宅ではこうした「土木工事」の部分を甘く見る人がいますが、そういう方は、結果として過剰なコストを基礎にかけたり、危険な作業を現場作業者に強いたりすることになります。設計とはこうした「施工」という部分までしっかりと見据えて行うべきなのです。