建築的にバリアフリーというと、難しく言えば、いわゆる「高齢者」の室内での移動動線環境を「高齢者」特有の身体的、行動的な特徴を踏まえて、それらが円滑になるように工夫することを指します。実際、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」というものも2006年に施行され、一定規模の特殊建築物に対して、高齢者や障害者の歩行等に関してその仕様を規制する法律もございます。
これを「住宅」に目を向けますと、「バリアフリー化」という言葉で締めくくられることが多く、その実態は、単に、
・段差をなくす。
・廊下などの幅を広くする。
・ドアや戸などの開口幅を広くする。
・手すりを付ける、
といったことが注目されるだけで、その実はあまり考察されていないと感じています。例えば「車椅子でトイレにいけるように」ということなどを要望されるケースもあるかと思いますが、これについては以前のブログでもご説明したとおり、「トイレに行く」という行動そのものが実態としてどうなのか?ということを理解しないと全く意味のない計画になってしまいます。
さて、今日は、そういった「バリアフリー」の視点を少々違う視点から考えるには、すごく役に立つ良書をご紹介したいと思います。
著者は、満元 貴治さんという方で、なんとこの方、作業療法士として病院勤務をなさっていた方です(実は満元さんには、弊社提供のラジオコーナーにも出演していただいた経緯もあります)。満元さんがお書きになったこの著書は「住宅内での事故」という部分でのお話がもりだくさんで、どの部分に、どんな危険性が潜んでいて、それをどのように解決するのか?という部分までかかれています。もちろん、一般的な建築としての「バリアフリー」という側面の記載もありますが、もっとも重要な「生活をする」という視点での記載がまとめられていることが特徴です。そしてそれらを「安全持続性能®」として定義しまとめておられます。
これまでの「バリアフリー」的な教科書、参考書の多くは、例えばフラット35での高齢者等配慮の基準値からの解説や、その他法的な部分での解釈などはあっても、「こうなっていると、このような危険性がある」という安全性という側面からの解説本は見たことがございません。そういう意味でも、建築に携わるものにとって、バリアフリー建築に関する「バイブル」とも言えます。
また、満元さんがおっしゃる言葉で重要なこととして「帰りたくても帰れない家」というものがあります。作業療法士としての病院勤務の経験で、患者さんが室内で転倒して大けがをして入院し、リハビリを経て無事退院となっても、「帰る家には危険がある」というものです。そして結果として、再度、事故にあい、再入院してしまうなど悲しい現実がそこにあることを痛感しておられることから発せられるお言葉ではないか?と思います。
建築だから建築の専門書をという狭い視点で「人の生活するステージ」など考えることはできません。またどんなに基準値をクリアしたとしても、それらが一気通貫して生活動線をカバーしていなければ、結果として単に広い、単に大きい、そういった設えにしかなりません。コストがかかる割にその効果は薄いものになりがちです。建築計画として参考資料として、できれば建築系の学生さんには読んでいただきたい良書です。
株式会社HAPROT
代表取締役 満元 貴治(活動名:ヨシロー)社長