旧耐震基準の建売住宅

本日も木造住宅の耐震診断の調査でした。福井市における今年度分は、抽選はすでに終了しており、診断員の派遣については今年度の最終という感じですが、弊社の担当については3月も2軒の調査があります。

さて、今日、お伺いした診断をご希望される方のところでちょっとした話題が出ました。今日、調査に伺ったところは、昭和56年に建築された「建売住宅」です。残念ながら確認申請書添付の図面などの建物内容がわかる書類はなかったのですが、しっかりと検査済証がありました。さらに、

「住宅金融公庫の検査済証」

もありました。持ち主の方は当時を振り返って「家が欲しかったので、ちょうど販売されていた手ごろな建売住宅を買ったのよ」とお話しされて、「能登地震でやはり心配になったのと、建売住宅なのであまりしっかりしていないという不安もあった」と付け加えられていました。

確かに「建売住宅」を安普請しているという感覚を持たれている方は多いとは思いますが、耐震診断を数多くこなしている者としての印象は真逆で、昭和56年以前の旧耐震基準の建売住宅のほうが、いわゆる大工さんに頼んで建ててもらったという住宅よりも「構造的な安定感」がハンパなくあります。さらに、その中でも、「住宅供給公社」や、現在でも営業活動をされている不動産会社による「分譲戸建ての建売住宅」は構造レベルでの安定感はすさまじいものがあると思います。

理由を説明します。建売住宅はその品質をしっかりと保証しなければなりませんので、昭和56年以前だとしても確認申請はもちろん、第三者の完成検査をほぼ100%の割合で行っています。さらに、当時は銀行での住宅ローンの金利はすさまじく高く、今のようにお気軽につかえるローンではありませんでした。そこで国の施策として「住宅金融公庫(現、住宅金融支援機構)」による住宅ローンを利用する方がすごく多かったわけです。

ですが、今でもそうですが「住宅金融公庫」がローンを実行できる建物というのは、公庫が認める建築仕様で、かつ、その通りに建築されていると認められるものにしか対応できません。したがって大工さんなどに家を建ててもらったからその費用を公庫で賄うなどということは制度上できないわけです(今でもできませんがw)。

公庫での審査は、設計審査と完了審査の2段階ですが、場合によっては「建方完了時の中間検査」もありますので、工事に関する検査は2回行われます。その時に設計審査で提示された設計仕様と差異があればローンは取り消されます(今も同じですがw)。そして、建売住宅の場合、「公庫付き住宅」という文言が良く使われ、購入にあたっては住宅金融公庫を使える旨を告知していました(今も同じですがw)。

公庫に対応する住宅というのは、今でこそ当たり前の仕様ですが、昭和56年以前ですと、大工さんの印象としてはかなりメンドクサイ建物なのです。例えば、これは床下の写真ですが、束石に木材の束が建てられ床を受けています。

よく見ますと、その束と束を繋げてる木材が取り付いています。これを「根がらみ」といいますが、1階の床の水平変位を低減する目的で設置されますが、これ、実際、施工するときって束の高さを一本一本合わせていってから根がらみを打ち付けるのでメンドクサイわけですw

この画像は、屋根裏の状況です。根がらみ同様に束と束を繋いでいる木材が打たれてます。これを「雲筋交い」といいますが、地震で水平力が掛かっても屋根面の構造変形を抑える目的で施工されます。これは今でも要求される仕様ではありますが、イマドキ結構、気を遣う構造面をすでに昭和56年以前の公庫仕様では実現してたというわけです。

そしてこれらの工事結果の内容を第三者が「確認」しているということが重要で、それが「検査済証」として発行されているというわけです。現行法においても過去の「完了検査済証」があることにより、この建物が少なくとも昭和56年当時の建築基準法に合致しているという証ですので、この建物を増改築工事を行うとしても、法的な手続き上も理想的な状態なわけです。

「大工さんが丹精込めて作った」と思われる建物よりも、皮肉なことに、構造面での合理性が証明が可能であるのが、当時の「建売住宅」であるというわけです。

そして、何よりも、建売住宅としてのコストパフォーマンスを上げるために、柱の直下率などは現在の建築様式に近いものがあり、軸力の伝達位置は上下階しっかりと揃っているところが数多くあります。決して、間取りが1階と2階がずれているというような「大工さんのフリーダムな空間」ではありません。

というわけで、調査のご依頼者には、当時の建売住宅の利点をご説明いたしました。かなり印象が変わられたようです。家に愛着を持っていただけると嬉しいです。

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