昭和56年6月以降の木造住宅の耐震改修

能登地震以来、住宅の耐震性について不安を抱えている方からの問い合わせも相次ぎ、診断や補強プラン作成のご相談を数多くお請けしておりますが、「旧耐震基準での木造住宅」に不安を感じている人がいる一方で、昭和56年6月以降の基準、つまり「新耐震基準」による木造住宅にお住まいの方からのご相談もかなりお請けしています。

この「新耐震基準下の木造住宅」には、現状では補助制度などは全くないのが福井県の現状ですが、全国的に見ても新耐震基準の木造住宅の診断・補強プラン作成、耐震補強工事への補助金を出している自治体は希少です。現実問題として、しっかり設計しているとすれば、そのような補強計画や補強工事は基本的に必要はないです。ですが、なぜそうした不安があるのでしょうか?

実は現在、新耐震基準で作られた昭和61年竣工の木造住宅の耐震補強工事を行っております。お客様のお話しよりますと、1月1日に発生した能登地震の際に「相当大きな揺れを感じた」ということで、ご所有の住宅の耐震性を疑ったというわけでご相談をお請けしました。

実際に調査すると、

評点はXとY、1・2階共1.0を下回っている結果となっています。ここで冷静に考えるべきなのは、この評点は「積雪1.0m」を加味した調査結果であり、新耐震基準であれ旧耐震基準であれ、そもそも、雪の荷重を考慮して設計することを「必須」としていない建築基準法に則って計画されているのが今の住宅であって、積雪考慮で耐震性がNGと出るのはまず「想定内」であるということです。

問題なのは、では、積雪考慮を無しとした場合、積雪1.0mの評点1.0に対してどの程度の評価を得れればおおよそ問題がないという判断できるかというと、ざっくり言って0.7の評点以上ということで判断はできます。

それを元にして考えれば、この新耐震基準で作られた住宅の耐震性は、Y方向について1,2階とも不足していることが指摘できます。この理由がいろいろな聞き取りや現場調査でわかったのですが、少なくとも2階の不足の原因は、

構造に無秩序なリフォーム工事

に原因がありました。昭和61年の新築完成後、家族構成や生活様式の変化に伴い、部屋数やスペースの問題でリフォーム工事を行っているのですが、その際に、要であるともいえる壁が撤去されていたわけです。そして、リフォーム工事は2度に渡って行われていましたが、最初のリフォームの段階で壁を抜かれ、2度目のリフォームの際に壁を復旧しただけで、耐力壁としての筋交い設置は行っていないというものでした。

その結果、耐力壁量が減っただけでなく、壁のバランスが著しく悪くなったのです。偏心率の計算結果はバランスの悪さを如実に表していました。

偏心率の限界は0.15と考えられていますが、弊社の新築の場合、偏心率は0.05以下を目標にしています。従って0.26などという数値は明後日の方向に壁の芯があるとすらいえるくらいのズレです。

1月1日の能登地震の際に、ひどく揺れを感じたというお客様の実感は、このバランスの悪さから建物全体が回転するような挙動があったものと推測できます。

新耐震基準で作られた木造住宅でも、その耐震性が確実ではないという事例となるわけですが、実際に補強工事を行うということになりますと、実は、旧耐震基準の住宅を改修するよりも「楽」なのです。

今回の事例のように、「バランス」に問題があるということがはっきりしている場合であれば、バランスを戻すような壁の配置を検討することを行えば、必要になる耐力壁要素はおのずとクリアしていくというわけです。さらに、2000年以前の新耐震基準で作られた木造住宅は、「金物」の設置がないことで、例えば筋交いがしっかり入っている壁であってもその耐力は3割は低減されてしまうという不利な状態になります。

また、構造的にも鉄筋コンクリート造の基礎であることは、ほぼ当たり前の時代ですので、基礎力の評価は高く見積ことができますし、なにより土壁などのややこしい壁の作りではないので、簡単に補強工事を行うことができたりします。

画像は和室の壁を壊したところのものですが、筋交いがないわけではなく、存在している(設計図書にかかれているわけで、あって当たり前なのですがwww)ので、作業としては、

 ・「柱と筋交い」に金物を取付ること
 ・足りなければ構造用合板などの面材で耐震補強を行うこと

の2つを主として考えればよいわけです。また、古い住宅にあるような「田の字の続き間」などの大きな開口を持つような連続的な部屋よりも、個室として使えるような部屋、例えば「寝室」とか「子供部屋」などがしっかりとあるので、比較的、補強できる壁面がたくさんあるということも、新耐震基準で作られた木造住宅の特徴であるともいえます。従って、改修費用はかかりますが、旧耐震基準の住宅を耐震化するよりも少ない経費で出来る可能性が非常に高いというものです。

なお、基本的に新耐震基準で作られた木造住宅の耐震改修で、評点0.7で済ますことはありません。なぜなら、新耐震基準は現行法の基準であり、福井県は「多雪地域」であるという指定がありますので、今、新築設計を行うなら遵守すべきことは遵守しなければならないからです。

※別の機会にテーマにしますが、現在の新築住宅で積雪を考慮した設計を行うためには荷重計算を行う構造計算がなされていなければなりません。

新耐震基準による木造住宅でも不安を感じる方は、どうぞご遠慮なくお問合せ、ご相談ください。

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