木造住宅の耐震基準について

耐震基準の違いの表現

令和6年能登半島地震発生依頼、ほぼ毎日のように住宅の耐震性についてのお問い合わせをいただいております。テレビ等の報道において、「旧耐震基準」という言葉が注目を浴びていますが、これらは建築基準法の改正に従って変化してきたものです。そんな中で、旧耐震基準と新耐震基準の違いというものを紹介しているサイトは多々ありますが、そのほとんどが、以下の表現を使っていると思います。

○旧耐震基準 10年に一度発生すると考えられる「震度5強の地震」が到来しても建築物が倒壊しない

国土交通省 資料2 住宅・建築物の耐震化に関する現状と課題 関係より


○新耐震基準 10年に一度発生すると考えられる「震度6~7の地震」が到来しても建築物が倒壊しない
 ※図の震度5以上に対して設計範囲としている。

という感じです。これは、想定される「地震の規模」から求められた耐震基準なのですが、結果として、震度法による地震の規模にどの程度対応できるのか?という表現でしかありません。非常にあいまいです。震度は場所によって変化しますし、地盤状況によってもその揺れは変わります。そこで、ここでは、そういった不確定な要素を考えず、建物に「基準」として要求している「耐力」といわれるものはどの程度の差なのか?という視点で「違い」をご説明します。

建築基準法で要求される「壁量」の差

まず、木造住宅等の小規模木造建築物に要求される耐震性能は、建築基準法において定められている内容としては、「壁量」といわれる地震の際に対抗できる必要な壁の量以上とすることが求められます。また、これとは別に風により影響も勘案し、要求される壁の量の大きい方を「必要壁量」として算出します。ただし、これはあくまでも、実験等の評価を踏まえて、簡便に耐震性を勘案できるようできた仕組みです(後々重要です)。その評価としては、

地震力に対する必要壁量 = 各階の床面積 × 床面積に乗ずる数値

で計算されます。1階、2階別々で計算し、それぞれの階で必要は「壁量」を算出します。ここで、旧耐震基準、新耐震基準でなにが変わっているのか?というのは、木造住宅等の小規模建築物の場合、この「床面積に乗ずる数値」が変更されているということになります。

以下、法律の変遷に従っての「床面積に乗ずる数値」の変化をお示しします。なお、壁量の計算では、「重い屋根」と「軽い屋根」というカテゴリー分けがあります(これもすさまじくあいまいで、一般的に瓦であれば「重い」、金属やスレート屋根であれば「軽い」となります)。3階建てにも規定がありますが、3階建ての場合には「構造計算」を求められますので、ここでは割愛します。

建築基準法施行令46条4項
◎重い屋根の場合

法制年昭和25年
(1950年)
建築基準法成立時
昭和34年
(1959年)
※これ以前を旧耐震基準
昭和56年
(1981年)
※これ以降を新耐震基準
新/旧割合
2階建の2階1215211.4倍
2階建の1階1624331.375倍
平屋建1215151.0倍

◎軽い屋根

法制年昭和25年
(1950年)
建築基準法成立時
昭和34年
(1959年)
※旧耐震基準
昭和56年
(1981年)
※新耐震基準
新/旧割合
2階建の2階812151.25
2階建の1階1221291.38
平屋建812110.917

これらを見ますと、旧耐震基準と新耐震基準の間で求められている「壁量」は、1.4倍程度増えているということになります。言い換えますと、旧耐震基準で設計されている住宅が、必要壁量ギリギリで設計している場合、求められる基準値は現行法よりも7割程度しかないことになります。

耐震性の違いの影響は?

先ほども書きましたが、

○旧耐震基準 10年に一度発生すると考えられる「震度5強の地震」が到来しても建築物が倒壊しない
○新耐震基準 10年に一度発生すると考えられる「震度6~7の地震」が到来しても建築物が倒壊しない

という目安があるとすれば、旧耐震基準であっても、震度5強程度であれば少なくとも倒壊をまぬがれることになります。しかし、近年の地震は、それ以上が発生している頻度が高くなっていますので、10年に一度などという確率論的な目安はほとんど意味がないかもしれません。余震も含めれば、10年のうちに複数回遭遇する可能性が高いということです。能登半島地震においても、令和5年にも震度6が発生しているわけですので、1年程度以内に震度6以上が2度発生しており、すでに法律の想定は破られていることに気が付いてほしいです。

耐震性2000年問題

多くの技術者の間では、耐震性2000年問題として、新たな問題を指摘する声が上がっています。これは、阪神淡路大震災での教訓を元に構造関係の規定を改正されたのですが、特に重要なのは、

・柱、筋交い等の接合部の金物設置
・筋交い等の耐力壁のバランスの良い配置の義務化

という部分です。阪神淡路大震災では、直下型地震の典型で、土台や基礎から建物が引き抜かれ飛んでしまうという破壊が多発していたのと、また、耐力壁の偏りにより建物が弱い部分が引き回しにあうように回転して破壊された事例が多く、この改正で新耐震基準に加え、構造関係規定にメスがはいりました。現行法ではもちろんこの2000年問題をクリアできている建物の設計となっていますが、単に、旧耐震基準から新耐震基準に準拠するだけでは、筋交い等の耐力壁の量的な対応にすぎません。

旧耐震基準を新耐震基準に準拠させる「耐震診断、補強プラン作成」においては、この耐震性2000年問題をクリアするように、金物設置、バランスのチェックを行うようになっております。言い換えれば、旧耐震基準を新耐震基準に準拠させるほうが、ある意味、耐震性2000年問題を踏まえると、より耐震性を重視していると言える内容になってしまうことが皮肉なことでもあります。

国、県、市町村での耐震診断・補強プラン作成、また、耐震改修についての補助については、現状では、新耐震基準に準拠している建物については要件にはいっておりません。もし、新耐震基準に準拠している住宅で耐震性に不安を感じるのであれば、弊社にお問い合わせいただければご相談を承っております。

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