柱の引抜力に対応する金物 ~N値計算式変更~ #4(終)

国交省からの改正基準法に対するマニュアルで、先日、公開された「2024年9月第2版」で、衝撃的な変更があった「N値計算」。それをブログテーマにする#4ですw

さて、前回のブログで、N値計算の「N値」というのは、この値に謎の係数5.3を掛けることで引抜力(kN)が求められるという説明と、この謎の係数5.3の意味っていう部分をご紹介しました。N値計算式は、引抜力の略算式であることは理解できるとして、その力学的な根拠になる部分はどんなものなの?っていうところに触れたいと思います。

このN値計算は、建築基準法上、構造関係の安全性を担保するための「仕様規定」として位置づけられていますが、仕様規定に準拠することだけが構造関係の安全性を担保することにはなりません。そもそも、本来は構造計算によって安全性を確認することが原則ではありますが、小規模な建物で、そこまで手間ひまかけなくとも、簡易に物事を判断して構造が安全側になるようにということで定められているものが仕様規定ですので、一定の条件のもとに評価されたものにすぎません。

木造の建築物もしっかりと構造計算を行い、構造を評価することもできるわけでして(弊社は、構造計算を行い設計しております)、その計算過程でも引抜力に対する評価というものは当然あります。以下の画像は、木造建築物の構造計算手法としては、ほぼバイブルとなっている、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」に記載がある「2.4.3 柱頭柱脚接合部の引抜力の計算」の項です。

この項に、「(3) N値計算に準拠した柱頭柱脚接合部の引抜力算定法についての力学的解説」というものがあります。この部分の説明は割愛しますが、導入式の前提となる構造モデルの紹介に始まり、定式化に至る過程を示しています。そして、最終的に簡易式の形態になる「条件」的の考え方も紹介されています。

しかし、ここで申し上げたいことは、この項の序盤にでてくる式の内容です。

この、式2.4.3.1には、H1~H3という、「階高」の設定があります。つまり、構造計算を行って引抜力を評価する場合には、2.7mの階高などという謎の縛りはないわけです。このとき、H=2.7と仮定し、Tを5.3で除す式を立てれば、N値計算で紹介されている、

という形式になるわけです。よって、今回の改正基準法で算出式に、H/2.7を掛ける式に変更になっているのは、そもそも「構造計算」でしっかり考慮していた「階高」について、これまでの仕様規定の「評価の大前提」でもあった、「階高2.7mを想定」を根本から見直したということになります。

ちなみに、「2025年版 建築物の構造関係技術基準解説書」というものが来年発行される見込みなのですが、今回の改正基準法の施行は4月着工分からですので、現段階で設計をすすめているものの大半は、改正基準法に則る必要があります。ですが、特に木造構造に関する規定変更が著しく、マニュアルレベルでの解説だけでは根本を知ることができないというわけで、来年発行前ではありますが「暫定版」として、すぐにでも影響を受ける部分についての抜粋がPDFで公開されています。詳細は、以下のリンクからPDFをダウンロードしていただき、ご一読いただければと思います。黄色のマーカーは、変更点を示していまして、たいへんわかりやすくなっています。

さて、

この式を単純に評価すると、評価する建物の階高Hと、仕様規定で評価の前提だった2.7mを比較して、その大小の割合だけ「割り増す」ということですが、これがとんでもない影響を与える可能性があることをお示しし、締めとしたいと思います。

土台天端から2階の梁天端までを階高として設定しますと、現状の設計では、3~3.2m程度だと思います。仮に3mとしますと、H/2.7の項は、1.11となり、計算値として導かれるN値は、現状で計算したものより、12%大きくなります。これが、確認申請の審査機関でどのように扱うか?という部分が大きな問題でありまして、令和7年4月以降では、それ以前の木造建物のN値計算は、「既存不適格」に当たる可能性があるということです。

したがって、令和7年4月以前の建物の増改築などを行う場合に、緩和規定が使えない場合、「現行法に仕様を合わせる」ことを求められた瞬間に、柱の金物を再計算して、問題がないことを確かめる必要があり、12%不足しているのであれば、金物を取り換える必要が出てくるというわけです。このあたりは、建築基準法の運用上の問題としてまだ認識されていないようですが、今後の審査機関の対応の公開が待たれます。

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