無等級材となる地域材への甚だしい誤解

以前のブログテーマで取り上げた「無等級材」といわれる、一般流通木材について、自称専門家たる人が甚だしい勘違いをしている事例が先日ありましたので、再度、説明をいたします。

自称専門家の主張の骨子は、「主要構造部の部材となる木材はJAS規格認定品でなければならない」という謎の主張ですが、少なくとも、建築基準法及び施行令、並びに告示、指導書等、いわゆる法的な根拠を持つ条文、資料には、そのような記載は全くございません。

建築基準法における「木材」への材料規定としては、建築基準法施行令 第41条の、

第四十一条 構造耐力上主要な部分に使用する木材の品質は、節、腐れ、繊維の傾斜、丸身等による耐力上の欠点がないものでなければならない。

この条文以外、ございません。なお、同施行令の「第三節 木造」は、第40条から第49条までの規定ですが、この条文内に、使用する木材の品質、材質、その他の強度関係を制限する規定はありません。

無等級材を建築に使用できないと誤解している自称専門家の方が、大きな勘違いをしている法律は実は2つありまして、その一つが、建築基準法施行令「第三節 木造」に記載がある「適用除外条件条文」です。

(構造耐力上必要な軸組等)
第四十六条 構造耐力上主要な部分である壁、柱及び横架材を木造とした建築物にあつては、すべての方向の水平力に対して安全であるように、各階の張り間方向及びけた行方向に、それぞれ壁を設け又は筋かいを入れた軸組を釣合い良く配置しなければならない。

2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する木造の建築物又は建築物の構造部分については、適用しない。

一 次に掲げる基準に適合するもの
イ 構造耐力上主要な部分である柱及び横架材(間柱、小ばりその他これらに類するものを除く。以下この号において同じ。)に使用する集成材その他の木材の品質が、当該柱及び横架材の強度及び耐久性に関し国土交通大臣の定める基準に適合していること。
ロ 構造耐力上主要な部分である柱の脚部が、一体の鉄筋コンクリート造の布基礎に緊結している土台に緊結し、又は鉄筋コンクリート造の基礎に緊結していること。
ハ イ及びロに掲げるもののほか、国土交通大臣が定める基準に従つた構造計算によつて、構造耐力上安全であることが確かめられた構造であること。

第46条は、木造建築(住宅も非住宅も)に対して、地震や風による水平力に対して問題ないように、筋交いなどの耐力壁を配置し、かつ、その配置のバランスの確認を求めている条文ですが、この第2項では、46条の規定の筋交い等の配置規定の適用を除外するもので、この規定の中の、一の基準に適合するものという項目にある、

イ 構造耐力上主要な部分である柱及び横架材(間柱、小ばりその他これらに類するものを除く。以下この号において同じ。)に使用する集成材その他の木材の品質が、当該柱及び横架材の強度及び耐久性に関し国土交通大臣の定める基準に適合していること。

との記載に対し、「国土交通大臣の定める基準に適合」という文言をやり玉にあげて、「無等級材は使えない」としているにすぎません。この条文は、木材の品質、樹種、仕様、その他の性能上の諸元を求めている条文ではなく、単に、「構造耐力上必要な軸組」に対する規定に対する「適用除外」の条件を示しているにすぎません。どこをどう読んだら、このような解釈になるのか甚だ疑問なのですが、実際、グーグルで検索をするとかなりのWEBサイトで、適用除外項目を持ち出し、品質規定があるかのごとく解説しているWEBサイトを散見できます。

ちなみに、「国土交通大臣の定める基準に適合」する材料というのは、

日本農林規格に適合する構造用製材の目視等級区分によるもの
日本農林規格に適合する構造用製材の機械等級区分によるもの
日本農林規格に適合する集成材

を指しますが、これをもって「JAS構造材でなければ使えない」という理由にしているにすぎません。適用除外条文に対する条件根拠にすぎませんので理由にはなりません。

第2項の適用除外をどうしても適用したいという状況というのは、建築基準法上の「仕様規定」といわれる構造上の要件に合致してこないような建築物、例えば、非常に大きな開口や、巨大な無柱空間を必要とする建物で、仕様規定に準拠させるには無理がある場合だと思いますが、そのような建物の場合、「構造計算」を行わず、単に仕様規定を用いて設計すること自体、法的な問題というより、技術的に考えて安全性が担保できているなどとは言えません。また、住宅などの小規模な木造建築でこの適用除外を使わなければならないような建物の計画だとすれば、それは、設計者が筋交いなどの配置設計ができないからではないか?という疑義すら出てきます。

勘違いの2つ目としては、建築基準法の「建築材料の品質」という規定です。

(建築材料の品質)
第三十七条 建築物の基礎、主要構造部その他安全上、防火上又は衛生上重要である政令で定める部分に使用する木材、鋼材、コンクリートその他の建築材料として国土交通大臣が定めるもの(以下この条において「指定建築材料」という。)は、次の各号のいずれかに該当するものでなければならない。
一 その品質が、指定建築材料ごとに国土交通大臣の指定する日本産業規格又は日本農林規格に適合するもの
二 前号に掲げるもののほか、指定建築材料ごとに国土交通大臣が定める安全上、防火上又は衛生上必要な品質に関する技術的基準に適合するものであることについて国土交通大臣の認定を受けたもの

これは、「建築物の基礎、主要構造部その他安全上、防火上又は衛生上重要である政令で定める部分に使用する」材料の規定ですが、これは、

基礎、主要構造部などの規定部位に、規制対象の材料(指定建築材料)を使う場合には、一から二の品質とする

という条文なのですが、これを、

基礎、主要構造部などの規定部位に、材料(指定建築材料)を使わなければならない

と勘違いしているにすぎません。法的には、

「これらの材料を使うなら、こんなのを使ってくださいねw」

って言っているにすぎません。ちなみに、「指定建築材料」とは、

建設省告示第1446号 建築物の基礎、主要構造部等に使用する建築材料並びにこれらの建築材料が適合すべき日本工業規格又は日本農林規格及び品質に関する技術的基準を定める件

で定められているものです。以下のようになります。

一 構造用鋼材及び鋳鋼
二 高力ボルト及びボルト
三 構造用ケーブル
四 鉄筋
五 溶接材料(炭素鋼、ステンレス鋼及びアルミニウム合金材の溶接)
六 ターンバックル
七 コンクリート
八 コンクリートブロック
九 免震材料(平成十二年建設省告示第二千九号第一第一号に規定する免震材料その他
これに類するものをいう。以下同じ。)
十 木質接着成形軸材料(木材の単板を積層接着又は木材の小片を集成接着した軸材を
いう。以下同じ。)
十一 木質複合軸材料(製材、集成材、木質接着成形軸材料その他の木材を接着剤によ
りⅠ形、角形その他所要の断面形状に複合構成した軸材をいう。以下同じ。)
十二 木質断熱複合パネル(平板状の有機発泡剤の両面に構造用合板その他これに類す
るものを接着剤により複合構成したパネルのうち、枠組がないものをいう。以下同じ。)
十三 木質接着複合パネル(製材、集成材、木質接着成形軸材料その他の木材を使用し
た枠組に構造用合板その他これに類するものを接着剤により複合構成したパネルをい
う。以下同じ。)
十四 タッピンねじその他これに類するもの(構造用鋼材にめねじを形成し又は構造用
鋼材を切削して貫入するものに限る。)
十五 打込み鋲(構造用鋼材に打込み定着するものをいう。以下同じ。)
十六 アルミニウム合金材
十七 トラス用機械式継手
十八 膜材料、テント倉庫用膜材料及び膜構造用フィルム
十九 セラミックメーソンリーユニット
二十 石綿飛散防止剤
二十一 緊張材
二十二 軽量気泡コンクリートパネル
二十三 直交集成板(ひき板又は小角材(これらをその繊維方向を互いにほぼ平行にし
て長さ方向に接合接着して調整したものを含む。)をその繊維方向を互いにほぼ平行
にして幅方向に並べ又は接着したものを、主として繊維方向を互いにほぼ直角にして
積層接着し三層以上の構造を持たせたものをいう。以下同じ。)

これを見ればわかると思いますが、これらの材料はすべて「工業製品」なのです。工業製品を建材として使用する場合、それを規制部位に使う場合には、それなりの基準を満たしているものを使いなさいとされているだけです。この中の木材というのは、集成材や合板でしかなく、ここに、いわゆる一般製材の木材は含まれていません。したがって、集成材や合板を使うのであればJASやJISの規格を通っているものでなけれならないわけです。

さて、ここまでが法的な部分での解釈が誤っているせいでの誤解の理由なわけです。もう一度いいますが、「無等級材を建築に利用できない」などという、法的な根拠はどこにも存在しておりません。ですが、だからといって、なんでもかんでも使えばよいか?といえばそうでもありません。ここからは、法的な部分というより、「技術的な判断」となります。

ちなみに、無等級材には、規定として「強度」が設定されています。

建設省告示第1452号 木材の基準強度Fc、Ft、Fb及びFsを定める件

で規定されています。

これは、製材された木材の強度を測定した結果を統計的にまとめて制定した強度ですが、切ったばかりの、まだ水をどっぷり含んだ木材でもこれが当てはまるか?といえばそうではありません。含水率というものがあって、木材が含んでいる水分が15%以下くらいにならないと、想定した強度はでてきません。また、冒頭でもご紹介した、

第四十一条 構造耐力上主要な部分に使用する木材の品質は、節、腐れ、繊維の傾斜、丸身等による耐力上の欠点がないものでなければならない。

という規定もあるように、無等級材であっても、ある一定の目視評価が必要で、実際、それは製材レベルでは等級基準として規定されています。それが以下の表です。

構造材として使用する場合には、一等材または特等以外は使いません。これは設計者としては極々当たり前の設計指定であって特別な配慮でもなんでもありません。また、製材屋さんとしても、劣化した木材を構造材として出荷はいたしません。だまっていても、1等材を出荷します。また、製材過程である辺材などは、胴縁などの下地材などで利用したりと、工夫して「木取り」を行うことで資源を無駄なくつかってくれています。

このような木材に対する「無理解」が、地域材利用の妨げになっていることは、業界全体として是正していく必要があります。

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