積雪荷重は考慮されない壁量計算

2025年4月より改正基準法の運用がはじまっています。大きなところとしては、建築物の区分が変更され、これまで構造関係規定の審査が省略されていた「木造2階建て一般住宅」においての審査省略がなくなり、構造関係の規定に関しても図面記載、計算などが審査項目になりました。まぁ、これについては、これまでもブログで様々な問題をテーマにしてきましたが、結論としては1点だけで、

設計していて極々当たり前の基準であって、審査の有無は問題ではない。

ということにすぎず、対応できない、わからないという設計士の存在そのものが問題であると考えています。それは建築士の個人的なスキルの問題であって、そんな建築士の存在を世の中が認めてしまっていた現実にこそ相当な問題があるわけですので、今回の法改正が少しでも良い方向に流れていくものと思っています。

が!

この改正基準法で構造関係規定にも少々変更があり、特に耐震性の部分についてはより詳細に評価することにはなったのですが、この後に及んでも、

積雪荷重については考慮しない

というルールは変わりません。そもそも、今回の改正基準法での耐震性の部分の評価改正では、木造の評価の場合に、これまで建築様式による材料などの重量が、省エネ性能を求めたり、創エネ設備の搭載などで「建物の重量が増加する」ことへの対応なはずです。このことは、国交省から出ている

「木造建築物における省エネ化等による建築物の重量化に対応するための必要な壁量等の基準(案)の概要」

という説明資料にも記載されており、そこには、以下のような記載があります。

難しそうな記載ですが、簡単に言えば、建物に必要な「壁量(耐力壁)」は、この式で計算されるものとするというわけで、以前のような面積に、ある一定数の係数を掛け合わせて求めるというだけではなく、より建物の重量を加味した計算によって算出するように改正されたというわけです。もちろん、この式は詳細式で、「Ai・C0・Z・Rt・ΣCi」というのは、構造計算でも扱われる式であり、建物の重量だけではなく、高さの概念も入っているので、ある意味、この手法を使うとなれば「許容応力度計算」で評価される一部を踏襲することになったというわけです。もちろん、このような計算を使わないで、ある程度の条件を元にして算出されている「当該階の床面積当たりの必要壁量」の一覧を使うこともできるわけですが、それでも、建物の重量をより細かく見るようになっています。

このような計算は、構造計算を普段から行っているような設計者には、極々当たり前の準備計算にすぎませんので荷重をどのように評価するのか?ということさえわかっていれば特段難しい問題ではありませんが、構造計算ではその地域で考慮しなければならない荷重、特に、雪が屋根に積もる場合の荷重(積雪荷重)についてはその評価は安全性を確認をする上では「必須」なわけです。というか、しなければいけません。

そして、この荷重を考慮した「当該階の床面積当たりの必要壁量」を計算するにあたって、便利なツールが公開され、そのツールを使って設計し、確認申請における審査資料として添付することも認められているのですが、これがそのツールでエクセルで作られています。

シートをみれば、屋根の仕様、太陽光発電の重量、天井・外壁の断熱材の重量や面積、を入れるようになっており、なんとなく重量をみているのかな?と見えますが、ここに「積雪荷重」というものの記載が見えません。

そうなんです。「建築基準法」にのみ準拠する場合には、このツールを使って算出する「当該階の床面積当たりの必要壁量」では積雪荷重を考慮する必要は「ない」んです。雪国福井で条例で積雪荷重の扱いが規定されているにも関わらず、仕様規定として構造を評価する場合には「雪をみなくていい」というわけです。積雪荷重を考慮しなければならないのは、あくまでも、性能表示等で「耐震等級」を検討する際の計算モードでしかありません。このことは入力例の説明シートでも記載があります。

言い換えれば、耐震等級を加味しない設計の場合、このツールを使うことで荷重の評価がなされるとはいえ、積雪を見ないわけですので、改正基準法における「荷重考慮」が完全になされているわけではないのです。

また、別の問題もあります。先の入力例の画像の下の部分の、この部分で

ここには、耐震等級1~3に対応する場合の「当該階の床面積当たりの必要壁量」の計算値が出てきます。となると、この数値で壁量計算されればその等級になるという認識になりかねません。耐震等級のレベルを評価するためには、もちろん壁量も問題にはなりますが、評価の前提の荷重には積雪荷重は絶対ですし、基礎や梁の強度、また、「構面力」という考え方を元にした評価など単に壁さえあればよいというわけではありません。ちなみに、等級2は、1の1.25倍、3は、1の1.5倍の地震力に対応できるようにするものですが、壁量が1.25や1.5倍になったからといって大丈夫なわけではないのです。

改正基準法によって、以前よりはより安全性の高い建物になる可能性はあるものの、こうした数字のマジックやツールの悪用によって「性能を騙す」輩が出てこないか心配です。

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