木造住宅の耐震関係のお問い合わせは、能登地震以降ほぼ毎日のようにお問い合わせがあります。それだけ、心配や不安が大きいのだろうとは思いますが、そんな中、ちょっと気になるキーワードがあります。それは「低コスト工法」です。
「低コスト工法」は、「愛知建築地震災害軽減システム研究協議会」でまとめ上げられた耐震改修手法としての集大成で、コスト高になりがちな「耐震改修工事」をできるだけ低コストで実現できるように、耐力壁の増強方法などを含め、様々な部分でまとめ上げられているものです。内容も非常に具体的で、設計する立場でも、施工する立場でも非常に参考になるものです。
「工法」と言われていますが、内容自体は特殊なものではなく、特殊な工法というより、それまで散見していた補強方法をつぶさにまとめ上げられていることで、集大成としての内容なのですが、残念なことに、この「低コスト」という部分だけが独り歩きをし、また、「工法」という言葉が付いているいることで「特殊な手法」であるかのような印象をお客様に与えている状況が多いと感じます。はっきりと申し上げますが、「低コスト工法」は、耐震補強方法の工夫であって、特殊な工法や材料を使うものではありません!
さて、できるだけコストを抑えるためには、改修内容を吟味することが必要ですが、弊社で意識している点は以下の項目です。
1.仕上げ材が比較的安価な部分での改修
→ 押入、クローゼット、納戸など。
2.できるだけ床・天井の解体を必要としない部分での改修
→ 見えている壁面を補強することで対応する。
3.抜本的に建物重量を軽くするために「屋根の葺き替え」を採用
→ 瓦から板金屋根などへの葺き替え。
4.外壁、水廻りなどのリフォームに併せた耐震改修計画
→ 工事内容が重複する部分をうまく利用する。
5.住んだままで施工を行う
→ 引越しなどを必要とさせない。
おおよそ、この5点に集約されます。この5点を意識するだけで、相当なコストダウンを図ることができます。そして最初にご紹介した「愛知建築地震災害軽減システム研究協議会」が公開している手引きにも以下のような記載がございます。手引き原文をそのままご紹介します。
以前から耐震改修が高コストになるのは、新築住宅に取り入れられるような手法を用いて改修することを中心に計画がなされていたことが多く、その結果、解体しなければならない箇所や面積が増え、高コストにつながる傾向が強かったわけですが、はっきり言えば、それは耐震改修における補強設計にコスト意識がなく、工夫がなかったために引き起こされたことなのです。弊社は2009年より、耐震改修事業を推し進めてきましたが、当初より「お金をかけない耐震改修」を目指してきました。特に弊社が意識する耐震改修工事の内容としては、
・特殊な建材を利用しない。
・パテントや認証にお金がかかるような工法は使わない。
・一般流通材で執り行えるものとする。
・できるだけ工期を短縮できる手法をとる。
この4つの項目は、耐震改修工事のコストを低く抑える上では最大限に重要な要素です。
ですが、雪国北陸にある福井県においての耐震改修は、原則、積雪荷重1mを加味した形での耐震補強を求められますので、太平洋側のような雪の降らないところでの評価より厳しくなります。その結果、求められる耐力壁の増強量も多くなりがちです。従って「全国平均」的な発想で耐震改修を考えるのは地域性としては合わないのです。
また、比較的規模の大きい住宅が多く、また、田の字のような和室が4つ配置されているような民家が多く、それらが非常に高価な和室仕立になっていることもあって、耐震補強を安価にできる部分が限定されるという建物の仕様上の問題もございます。これも地域性に関係することです。
最近、「低コスト工法」を謳い、如何にも安い工事金額で耐震改修を行うということを全面に出して営業する業者がおりますが、「低コスト工法」は、特殊な工法でもなんでもないことをご理解ください。そして、少しでも不安や不信なことがありましたら、セカンドオピニオン的にご相談ください。