過去のリフォーム記録が建築計画を救う

弊社では過去の建築施工記録を、相当数の画像で記録しているのですが、今日、その記録があってよかった!とい事例がありました。

現在ご相談をお請けしているお客様の案件は、昭和57年に新築された住宅の一部「増改築」です。増改築というとなんとなく規模の小さい工事だと想像されるかもしれませんが、現状の住宅をほぼ半分壊して、壊した部分に構造を分離させて状態で増築(新築)するというものです。

ちょっと具体的なイメージとしては、完成形ですが、こんな感じです。

このような建築手法は、既存建物の構造が理解できれば、通し柱を境にして梁を切り落としすることにより、それほど難しくなくできる施工ですが、問題になるのは、この既存+増築(新築)に対して、建築基準法に対する法適合判定が合格できるのか?という部分が最大のハードルになります。

近年、既存住宅の流通を促進させるために、既存住宅改修に対しての現行基準法への法適合についての「緩和措置」というのが決まり、これを「既存不適格」という法律用語で表してるのですが、これには条件があります。一番最初に出てくる条件として、

 増築する部分の面積が、基準時(ざっくり言えば一番最初に新築した時)の1/2以内であること

というものです。この条件に当てはまる場合には、既存部分についての構造規定についての審査が、相当量緩和されます。特に大きいのは、基準時が2000年以前のものであれば、柱や筋交いへの金物設置が法律的に定められていなかったので、「既存不適格」として扱い、他の手法で安全性を確認すれば問題がないという手段がとれます。その一つの手段として「一般診断法による耐震診断」というものものもあります。

このあたり、「検査済証」を受けていない建物の場合、各自治体で扱いが違う可能性があります。ちなみに特定行政庁である福井市では、「検査済証」がない場合でも、設計士が現況調査を行い、復元図面を作成して調書を別途提出することで、「既存不適格」としての扱いができます。

ですが、この「1/2以内」でない場合はどうか?というと、問答無用で建物全体を現行法で法適合審査するというモードになります。この場合、構造関係の規定を満足しているということを示すためには、結構、ハードルの高い調査や、追加工事が必要になります。一つ目のハードルとして、

 ・柱頭柱脚金物の設置
 ・筋交い金物の設置

については2000年以降の規定ですので、それ以前の建物にはそのような措置が取られていないわけです。つまり、既存部分として残存する部分には、金物の設置を追加工事として施す必要がでてきます。

もう一つのハードルとしては、

 ・基礎の鉄筋コンクリート造であること

です。金物については、計算して、必要なところの壁を剥がして金物を設置すればできますが、基礎については、仮にコンクリート造であったとしても、それが無筋コンクリートであれば、現行法の規定に準拠していないことになり、基礎を作り直すことになるわけです。そうなれば、相当な工事費もかかるわけで、もはや既存部分を残した工事を執り行うこと自体の必要性から検討しなおさなければなりません。

言い換えますと、このようなある意味「メンドクサイ」ハードルがあるのが既存部分を残した増改築工事なわけで、新築による設計施工対応は、すさまじく簡単な話しとなるわけです。

ですが、お客様の要望として、既存部分を残したいというものがあり、その要望自体が合理的な理由であれば、法的な問題だけですので、それをクリアしていくことを真剣に検討すべきなはずなのですが、先ほど書いたように、「メンドクサイ」という理由で「新築にしましょう」という提案をしがちなのも現実です。

逆に言えば、前述した2つのハードルがあった場合に、そのどちらも確定ではないにせよ、対応できていると思われる場合、この「メンドクサイ」法適合についてのハードルはグッと下がってくるわけです。

というわけで、先にアップした建物ですが、実は2018年に内部改装のリフォーム工事をさせていただいておりました。その際の工事記録が少なくとも、ハードルの1つ目をクリアできるきっかけになったのです。

これらは一部なのですが、この画像からわかることは、

 ・基礎と土台がアンカーボルトで緊結されている
 ・土台の防腐処理はなされている
 ・金物の設置(ただし、金物の規定に準拠しているかは別途計算等が必要)

というところまでは、調書に記載し、法適合の根拠とすることができます。また、過去の工事の際に、そのときの法律に定められてるレベルのことはすべてクリアしておくというスタンスを取っていたことも重要です。リフォーム工事というと、見た目が新しくなったり、多機能な設備品の設置だけに注目がいきますが、後日の抜本的な改修の必要性が出た場合、それらの工事は単なる化粧にすぎないということになります。

リフォーム工事の際には、必ず現行法への適応状況をご確認することをお勧めします。

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