住宅であれ非住宅であれ、建築の目的は、
「外部と空間を分離して、その空間で自分が望む用途で活動したり生活したりするスペースを作り出す」
ということです。その時に問題になるのは4つあって(性能面はおいておきます)、
①何に使う空間なのか?
②どうやって空間をつくるか?
③その空間に安全性があるのか?
④その空間をつくるためのコストはどの程度か?
ということを設計という作業で解決していくことになります。①についてはお客様とお話ししてご要望を聞くことになりますが、その結果を②から④で提案していくというわけです。住宅の場合は比較的小さな空間を数多くつくってそれを集合体にするという計画になりますし、非住宅でも工場などですと、大きな空間を一発で確保するということが求められる計画になります。このとき、どのような構造を採用したほうがよいか?という部分では、一般的に小さな空間の場合には「木造」で、大きくなれば「鉄骨造」や「鉄筋コンクリート造」という選択肢になります。もっと大きく、かつ、高さが高くなりますと、「鉄骨鉄筋コンクリート造」などというものもできます。そして、これが自称専門家の間でも一般的に認識されている構法の認識です。
当然、建物が大きくなればなるほど、重量は重くなりますし、木、鉄、コンクリートの順で材料の重さも大きくなっていきますので、求められる安全性のレベルも木、鉄、コンクリートの順で大きくなっていきます。そして④のコストは、これまた当然、一般的に木、鉄、コンクリートの順で高くなっていきます。
大きな建物の建築計画を考える上で、コストを考えた場合、「木造」による選択肢が可能であれば、鉄やコンクリートを用いる場合よりコストを抑えられることはだれでもわかることですが、ここで懸念されることがあるのが、
「木造でそんなに大きな建物を建てるなんてことができるの?」
ということですが、もちろんできます。以下は、弊社のYoutubeチャンネルでも公開されている「中大規模木造建築物の一例」です。
この事例の特徴は、818㎡という大きな建物であることもさることながら、13.65mの空間に一本の柱も立てずに無柱空間として作り上げています。


一般的にこうした大空間をつくるためには鉄骨や鉄筋コンクリート造の柱を立てることを考えますが、これらをすべて「木造」で実現した事例です。もちろん「木」は鉄や鉄筋コンクリートよりも強度は格段に落ちますので、「木」で大空間を作るためには様々な工夫が必要となります。
でも、考えてみてください。大空間をつくるというのは大きな屋根とその屋根に載るであろう雪や設備などの重量を「支える」こと、そしてそれが横からゆすられても倒れない、ということさえ実現できれば、その構法は木でも鉄でも鉄筋コンクリートでもどうでもよいのです。となれば、コストを考えれば、可能な限り「木」で対応することが必要になりますが、そこには木造への対応技術が必要となります。構造計画として重量や地震力に対応できるだけの構造を実現するように計算も必要になってきます。部材はたいへんな数になりますので、その一つ一つが問題のない大きさや耐力があることを確認する必要もあります。もちろん、施工は人の手ですので、施工性という部分での検討も必要です。絵は描けても作れないのでは意味がありません。言い換えれば、コストを落とすのであれば木造一択は間違いないが、その強度や構造などをかなり綿密、緻密に計画しないとできないのが、「中大規模木造」と言えるかもしれません。
さて、そのような「中大規模木造」におそらく一つの新時代を切り開くのでは?と予測できるようなシステムが発表されました。弊社でも中大規模木造建築の計画で、木と木を繋ぐ金物などの設計を依頼させてもらっている「ウッド・ハブ合同会社」(代表 實成 康治先生)が、
WHフレームシステム
というものを発表しました。
この「WHフレームシステム」は、屋根や2階部分を支える「柱」と「梁」を一体のフレームとして考え、そのフレームのパターンを数種類用意することで構造の主要部分の計画をシステムとして簡略化し、さらに重要なのが、ある程度の予算感をフレームの組数で想定できるというコスト管理を円滑にすすめることもできる優れものです。まずは、パンフレットをご覧ください。





ざっくりと説明しますが、構造として重要な部分を「フレーム」として用意します。このフレームの組数が何組必要か?というのは、ほしい空間に対して何組用意すべきか?ということだけ考えればよいわけです。例えば梁間方向が9mで、桁行方向が14mであれば、その14mに何組フレームを立てればよいか?で考えればよいというわけです。14mを2mごとに1組であれば、8組のフレームがあれば構成させることができるわけです。事前にフレームの計算をしておき、想定できる荷重域を想定することで、ほしい空間さえわかれば主要な構造関係のコストがはじき出されるというわけです。

構造以外の部分としては、例えば、赤の線の部分は外壁を作るため、また、フレーム相互の振れ止めのための梁を加えていくのですが、これが全体の構造材に対するコストなど「たかがしれている」わけです。フレームの組数は上部にかかる荷重によって変わります。このフレームのピッチ(間隔)を短くすればより大きな荷重を支えることは可能になります。基礎についても、このフレームを支えることができる基礎であればよいので、その他は特段構造的に重要なものではなくなります。従って、おおよその予算を早期に提示することが可能になるというわけです。
そして、もう1点重要なことがあります。

これはパンフレットに記載されている部材ですが、材料はどれも特殊なものがありません。梁は「住宅用一般流通材」とかかれていますが、普通に住宅を建てるときに使うような構造材です。また、接合部には、「MPねじ接合システム」と「P3プラス」、さらに「テックワンP3」というもので構成させています。「テックワンP3」は当たり前に住宅でも使われる接合部の金物で「KANESIN」です。「MPねじ」や「P3プラス」も「テックワンP3」もカネシンという金物メーカーが開発販売しているものです。言い換えれば、どれも、そこら辺で調達できるような部材だということです。実は、これがすごく重要です。
この種のシステム系の構造は「受注生産」だったりで材料調達に時間がかかったりします。また、受注生産のためコストも割高になることが多いです。實成先生は、このあたりを重視し、「今そこにあるもので」という部分を重視し、フレーム開発されています。
もちろん最終的な構造に対する安全性の確認という、普通に行う設計の過程は必要ではありますが、まず、この「WHフレームシステム」を使うことでどの程度のコストダウンを鉄骨や鉄筋コンクリート造と比較した場合に実現可能か?という部分を早期に検討することができるというのは、最大限の利点ではないか?と思います。
また、大規模空間を作ることを木造により実現することのハードルをかなり低くすることができるというのは、カーボンニュートラルを重視される時代においてもお客様に対しての提案メリットとしてとらえることができるのでは?と感じます。
今、鉄骨などで工場をお考えの方、一度、木造ではどうか?というのをご検討なさってはいかがでしょうか?