捨印は必要なのか?

今日、お客様の住宅ローンの「金銭消費貸借契約」(通称:金消契約)に立ち会わせていただきました。住宅ローンを組むという一言で済みがちですが、実際には、住宅ローンという金融商品を使って「資金を得る」ことになりますので、そこには、お金を貸す側(債権者)とお金を借りる側(債務者)との間で、「契約」が必要となります。お金を対価として払ってモノを受け取ることと同じように、「お金を消費する」ために「お金」を「借り」受けるということで「金銭消費貸借」する「契約」となるわけです。

銀行によって書く書類は色々ですが、一般的には、すでに借入申込を行っていることを前提としており、実際にお金を授受するための契約となりますので、基本的には、

「金銭消費貸借契約書」

のみが書類となります。ですが、同時に、土地や建物に担保権を付けることが必要だったり、その他、団体生命保険への加入手続きも同時にしたりしますので、書類の量はかなりの枚数になりますし、土地が親族の方(例えば、お父さん、お母さん)のものだったりすると、いわゆる「担保提供者」として、その方も金銭消費貸借契約書に担保提供者として記名等が必要になりますので、手続きとしてはより複雑にはなります(ゆうほど大したことではありませんがw)。

で、それらの書類を書く際に、日本ではまだまだ「印」を押印する文化はすたれておりません。さらに、これらの「権利関係」の書類取り交わしでは、原則として「実印」と「印鑑証明」が必要となりますので、ある意味、自署+押印で鉄壁のセキュリティを施しているともいえますw 単に印鑑押しただけではなく、その印が特定の個人を指し示すものであるという公的な書類と共にあるわけで、さらにその書類発行のためには、印章の確認と本人確認は絶対ですので、アナログ的ではありますが、ほぼ不正を働くことはできません(それでもやる奴はいますので、ご注意ください)。

その書類に押印する場合、

 < 名前の署名 >  (印)

という形式になるかと思いますが、この手の書類には、書類上部などに「捨印」といわれる印を押すことがよくあります。書類を書きなれている人でも、この「捨印」はなぜ押させるかを正確に知らない人が多いです。

契約書をそのまんま公開するのはまずいので、ちょっとイメージだけという感じで画像を載せますw イメージだけですwww

請負契約書などの上の方に、印だけ押されてます。この印のことを捨印というわけですが、この印の目的はたった一つ、

記載内容の訂正を行った場合の箇所に「訂正印」を押印することを省略するため

です。「訂正印の省略」と覚えていただければと思います。要するに、この契約書を双方が取り交わす場合、あとから誤字や脱字などで訂正が必要になった場合、正式な書類として認めさせる場合には、訂正した箇所に双方が押印する必要があるわけですが、常に顔を合わせることができればいいですが、やり取りに時間が掛かったりする場合に、その手間を省くために、ある意味「事前に訂正印をもらっておく」というわけです。そして、実際に何かを訂正し、その訂正内容をこの捨印の横に箇条書きするとこの「捨印」は「訂正印」として扱われるというわけです。

ここまで聞くと「あれ?」って思われる方もおられると思います。要するに、「訂正印を先にもらっておく」のと同義なのがこの捨印ですので、お互いに「ここ間違ってるから訂正しましょう!」ってことで話しがついているのであれば問題ないですが、契約の甲と乙がいて、乙が勝手に記載内容を変更してしまって、それを捨印の横に箇条書きにした場合、書面としては効力を持つ、つまり、「双方が同意をした上で書面修正を行った」と解釈されてしまいます。

例えば、請負契約書で、以下のような訂正を勝手にやったとしたらどうでしょうか? これはかなり「極端な事例」ですが、

本来ではあれば、金額訂正ですので、双方が了解した上でしか訂正できませんし、そんなもん了解もせずに金額訂正に応じるわけがありません。ですが、捨印を押してますので、このような訂正は「書面上」OKとなるわけですwww (笑いごとではないですがw)

おそらく、金融機関との間や、工事業者との間で、こんな極端な不正行為はありえませんが、「捨印を押す」というのは、記載内容の訂正印省略ですので、これを逆手にとればできてしまう話しになります。

これは「契約書」の場合ですが、実は意外と怖いのが「委任状」です。

委任状というのは、本来は自分が様々な手続きを行う必要があるのですが、それを「代理人」となるべく人に手続きをお願いする際に、自分本人がそれを代理人に「委任」した旨の書面です。一般的には、「だれを」「だれが」「何の目的を」委任するのか?ということが記載されます。

例えばこれは耐震改修工事の補助金申請関係の委任状になりますが、「4.委任事項」ということで様々な委任内容の項目が記載されています。実際は、委任する項目には✔マークが入ることで委任事項を明確にし、その項目がない場合に、別途空欄に内容を記載します。

この委任状には、委任する方の署名と捺印がありますので、もし、この委任状に「捨印」を押した場合、このその他の記載内容のところに、とんでもないことを記載すれば、その文書に訂正印を押さずとも委任内容を勝手に書き換えることもできてしまうわけです。どちらかという、委任状の捨印のほうが恐ろしいかもしれませんw

さて、今回は、事例として「捨印を押す」というイメージをお伝えするために、契約書の上部に捨印を押したものをご紹介しましたが、弊社では、

公的書類の書式等の特段の理由がない限り捨印の押印は求めません。

書類の訂正につきましては、都度、ご面倒でも訂正印をいただきに上がるか、書面そのものを差し替えることで対応しております。これは、書類改ざんを防ぐためだけではなく、ほとんど定型化した書式的な捨印をわざわざ行うことで訂正や修正を容易にすることは書類記載内容の管理の厳格性を損なうと考えているためです。

書面に「捨印」を求められる際には、相手をよく見て、判断してから押印することをお勧めします。捨印がなくても書類としては形式が整うわけですので。








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