部分改修耐震補強の誤解

耐震改修工事に関する補助金事業が展開されていますが、各自治体では以下の耐震改修のモードを用意しているところが多いです。

 1.全体改修工事
 2.部分改修工事

この違いをちゃんと理解している診断士や、補助金審査を行う行政窓口の担当者は少ないのでは?と思います。この言葉の意味をちゃんと理解しないことから、以前もブログでご紹介しました「低コスト工法」と同じくらい「部分改修」という言葉をしっかりと理解しないと危険であることをお話しします。

文字だけを判断しますと、「全体改修」は住宅全体の耐震性をアップする工事で、「部分改修」は住宅の一部分の耐震性をアップする工事であるという印象を受けます。実は、この認識が間違いのスタートなのです。正確に言いますと、

全体改修とは、建物の耐震性を「建物全体」で評価、検討するもの

で、

部分改修とは、建物の耐震性を1階の限られた「部屋」で評価、検討するもの

なのです。評価、検討するエリアを建物全体で行うか、1階のどこかの部屋(通常、一部屋)で行うか、の違いなわけです。まず、この前提を理解しないと、如何にも部分改修では少ない工事費で耐震改修ができるというイメージがあり、部分改修さえ行えば建物全体の耐震性が確保できるのでは?という「誤解」される方が後を絶ちません。本来は、行政窓口でこの両者の違いを明確に説明すべきなわけなのですが、その具体的な内容をちゃんと理解していないことが大半なのです。

もう少し話しを掘り下げます。全体改修は建物全体の壁の持つ耐力を足し算して、足りないところに補強をかけていくことを行いますが、部分改修では、「一つの部屋」の持つ耐力を強固にするというわけですが、全体での建物の耐震性を評価することが必要ないわけではありません。たぶん、ここを知らない人が大半なのです。福井県木造住宅耐震診断士の資格研修におきましては、この「部分改修」の場合に「明確な条件」を示しております。

これはテキストの一部分をそのまま公開するものですが、このテキストの中に、「4.部分耐震改修工法」についての、「福井県木造住宅耐震診断士」としての「認識」の記載があります。特に重要な部分を抜き出しますと、計画条件という項目がありまして、以下の通りです。

部分改修では、改修する「部屋」を決め、その部屋を「特定居室」として扱い、その部屋からは地震時には「外部に逃げる」ことが容易にできる開口部を有することという条件があります。この場合、「外部に逃げる」わけですので、外部には道路等まで逃げだすことができる「敷地内通路」が確保できなければなりません。これは、建築基準法にも規制があります。

また、部分改修といいながら、全体の構造評点について「0.4」以上であることを推奨しています。それ以下になる場合には、特定居室の周辺が地震時に瓦解する恐れが顕著になりますので、特定居室が引きずられて破壊してしまう可能性も高くなります。

そして、特定居室だけの面積的な評点を計算した場合、評点が1.5以上になるようにということです。かなり、ガチガチに固めることを求められます。これが後々他の問題を引き起こします。後述します。

さらに、特定居室の影響のある基礎、床の仕様はⅡ以上とありますが、これは、基礎を最低でもコンクリート造にすることを求めています。基礎がなければ基礎の施工を求められるわけです。田舎の古い家で外回りには基礎が存在しているが、内部には束石に柱立てされているような家が多いわけですが、部分改修を行うとすれば、対応する部屋には基礎があることが必要になるというわけです。

さて、最も重要なことですが、先ほど後述すると書いた内容です。特定居室を評点1.5とする、つまり、どこかの部屋をガチガチに固めるということをしますと、その部屋が建物の「中央」にあればいいですが、建物端部に位置する場合、その部屋がガチガチになることで、建物全体の「固さのバランス」が非常に悪くなります。釣り合いが悪い、偏心率が悪いという表現を行いますが、これが、耐震性の評価上、耐力壁の「配置低減係数」というもので低減されてしまいますと、かえって全体の評点が低くなる恐れもあるわけです。これが、条件の6番目にかかってくる内容になりますので、部分改修を行うことでかえって耐震性が阻害される、やらないほうがマシになる場合があるというわけです。

おそらく、部分改修という言葉を聞けば、どこかの部屋だけを耐震性をアップし、万が一地震がきてもその部屋に居れば安全だという思惑があるかもしれません。ですが、それは「耐震シェルター」であって、部分改修ではないのです。もし、それがご希望であれば「耐震シェルター」を導入されたほうが良いわけです。

部分改修の場合には、ある一部屋を改修することで、そのほかの部屋に被害が出るかもしれないけれど、特定居室とした部屋にいる限り「避難までの時間稼ぎはできる」レベルだとお考えいただいたほうがよいかもしれません。

また、全体改修の場合でも、どこかの部屋やエリアを改修することで、耐震性をアップし、現行法レベルまで強さをアップすることは可能です。というか、全体改修のそもそもの意味は、評価を建物全体で行うことで、改修箇所を絞ることを検討するわけですので、結果として、例えば、押入を2箇所ほど改修しただけで耐震性がアップしたという場合もでてきますし、廊下の壁の一部分を強固したら評点を1.0クリアできたという場合もあります。もちろん、どこかの部屋を強固にした結果、全体の耐震性が1.0をクリアした場合も多いです(大半はそうなります)。

安易に、「部分」だから工事内容が小さくて済むとお考えであれば、どうか、そのようなイメージを持つことをおやめください。そして、ちゃんと診断士に相談し、規定のルールを最低限守ることを意識していたきたいと思います。

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