その3に続きます。
前回は、確認申請における審査項目が省略されていた現行法が、その省略の一部が省略された場合、実際の施工で実施される「完了検査」で求められる資料提出の幅が大幅に広がり、審査省略にならされてしまっている監理者では、経験不足などから検査資料も用意できないこと、また、必要な工事監理ができない恐れがあることを説明しました。
繰り返しになりますが、審査省略があろうがなかろうが、設計も施工監理も全般にわたって必要なことでしかなく、その一部分が「第三者機関による審査省略」をうけていただけのことで、今更、法律が変わったところでなにも慌てることなどないはずなのです。それを慌てるということは、そもそも、設計においても、また、現場監理に関しても「手抜き」であったということになります。実際「手抜き」であればまだマシなほうで、専門家、技術者を名乗っていても、結局のところ必要な技量を身に付けていなかったことになるわけです。今回の法改正では、こうした技量不足な専門家や技術者があぶり出される結果になるものと推測します。
さて、今回の法改正では「審査省略の廃止縮小」だけではなく、以下の2つの点も重要になります。まず、1点目は、構造計算の審査が必要になる面積規定が大幅に引き下げられるというものです。
編集協力 国土交通省住宅局建築指導課参事官(建築企画担当)付
発行 一般財団法人 日本建築防災協会
一般財団法人 建築行政情報センター
これまで、「構造計算」が審査内容として必要だった建物は、
500㎡以上 or 3階建て以上
の建物の場合でした。これが改正後には、
300㎡以上 or 3階建て以上
ということになります。この「300㎡」というのは、都市圏では珍しい建物大きさですが、地方においては、いわゆる「100坪の住宅」という形でそれほど希少な存在ではありません。また、住宅以外でも木造の店舗や事務所、その他施設であれば、簡単に300㎡の規模を超えるものが計画されますが、木造化するための「構造計算」を行うことができない設計者は、この提案を安易にできなくなります。この法律改正の背景にあるのは、予想される大規模地震に対して、建物の規模が大きくなればその影響を単なる量的な規定を守ることでクリアできないという判断があると推測しています。実際に、弊社ではこの面積規定に関係なく、住宅でも非住宅でも「構造計算」を行いますが、当然、北陸独特の雪の重さなどを加味しますと、いわゆる仕様規定といわれる量的な規制をクリアしたとしても、安全性が担保されないことを経験しています。正直なところ、すべての建築物に「構造計算」を義務付けるべきだというのが私どもの考えです。
2点目は、住宅でも省エネ性能の法的基準に適合していることを義務化されたことです。つまり、省エネ性能を法的に規制していることに対しての審査が義務化されるということです。
編集協力 国土交通省住宅局建築指導課参事官(建築企画担当)付
発行 一般財団法人 日本建築防災協会
一般財団法人 建築行政情報センター
これまでは住宅においては、単に建築主であるお客様への「説明義務」があっただけで、言い換えれば適合していなくとも、それを理解し容認していれば問題がありませんでした(ですが、ちゃんと、説明を受けていたか?はさほど問題になっていないのです)。それが改正後には、すべての新築住宅の面積規模で「適合義務」となります。どのような手法で適合を判断するのか?といいますと、
①消費エネルギー計算などから省エネ性能を確認する
②一定の仕様に準拠することで省エネ性能を満たしているとみなす
の2つの方法がございます。①は細かい諸元の元に、実際に消費されるであろうエネルギー計算を行い、それが国の基準値よりも下回っていることを示すものです。②については、あらかじめ用意された断熱材のレベル等の仕様基準を満たしていることを示すものです。①と②比較すれば、②のほうが簡単ですが、より精度の高い省エネ性能を求める設計を行うことは無理です。
最後になりますが、この手の法改正は、「施行」という時期が定められており、その施行前であれば法的な規制は改正されたものでは受けないという一定のルールがあります。従って、2025年4月前に、設計に関する「確認申請」を行えば、これらの改正法の適用を受けることはありません。もし、次のような説明を受けたら、それは技量がない技術者だと思っていただいて構いません。
「2025年4月までに確認申請が出せないと建設費が高くなります」
「2025年4月までに確認申請が出せないと構造計算をしなければならないので設計費が高くなります」
「2025年4月までに確認申請が出せないと断熱材が高くなります」
ちがいます。それは技量不足で改正された法律に対応できないことを隠すための常套句です。