古い住宅の危険な1階

耐震診断を行う際にもっとも気を遣うのは「現場調査」です。以前のブログ記事でも取り上げましたが、この調査作業を吟味しないと、耐震診断結果はおろか、補強プランを作成しても「全く意味のない」プランになる可能性があります。

特に調査を吟味する必要があるのは「1階」です。現場調査を行いながら平面図を作り上げていくと、古い住宅でも比較的壁の多い建物があります。ですが1階の壁で耐震性が評価されるための条件としては、「基礎」がかかせないのです。

以下の画像は一般的な床下で見受けられる布基礎の状態で、布基礎の立上りの上には土台があり、その土台で柱を受けています。この「基礎ー土台」が耐震性では重要で、地震による力を確実に地面に伝えることができるわけです。もちろん土台が基礎にアンカーボルトなどで緊結されることでさらに強力になります。

ところが、古い住宅では以下の画像のような「柱だけを受ける基礎」が多く見受けられます。

なるほどコンクリートで大きな塊をつくって、それで柱を受けているわけですが、この基礎の場合、上からの力支えることしかできません。柱と柱の間には土台のようなものが渡してありますが、この土台は単に床を受けるためのもので、筋交いなどの横からの力を地面に伝えるための「受け」にはなりません。それでもないよりはマシで、あまり強くない耐力壁(雑壁)程度としては評価できるものの、この部分にがっちりとした筋交いや構造用合板を張った壁を作ったとしても、期待できるほどの耐力はありません(ですが、決してゼロではありませんが)。

実は、このようなやり方は、昔ながらの住宅建築でよく使われていた「石場建て伝統工法」の名残りです。昔々は石を突き固めた地面に並べ、その上に柱を立てるだけの構成でした(これはこれで、大きな材料をつかい重量を出すことでズレを防止するなどそれなりに利点はあったのです)。その流れで「外周部はコンクリート造の基礎(無筋)」で、建物の内側には写真のようなコンクリートの塊を作って柱を受けたという感じです。

このような住宅に対して床下の基礎の状況をろくに調査せずに、1階の耐力壁をこのような基礎形状のところで補強するようなプランをつくりますと、それは結果として「性能不足」に陥るということになります。耐震診断や耐震改修を行うにあたっては、このような事例があるものとして調査にかからなければ、床をめくった段階で基礎の存在がないことに気が付き、補強プランの見直しか、お客様に追加の予算をご用意していただかなければならなくなります。耐震診断における調査は、このようなこれまでの建築手法としての事例を経験値としてもっていないと、単に間取りの調査に終わってしまい、精度の低い診断や補強プランになりがちです。

1階の床下は耐震診断、補強プラン作成においては最重要な調査項目なのです。

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