住宅の耐震診断のご依頼を受け調査するときには、その家が新築されてから今に至るまでの経緯をしっかりと聞き取ったり調べたりすることが必要になります。ですが、お客様は専門的な知識をお持ち合わせではないので、単に「増築した」とか「改修した」とか「模様替えした」ということしかわからないことが多いです(福井弁では「なぶった」って言いますw)。また、年数が経っていると、今住まわれているお年寄りが子供の時に新築したというくらいの時間の経過だったり、正確に覚えていなかったりします。
先日アップしたブログで、「住宅改修のあれこれ」と題して、「エキスパンションジョイント(Exp.J)」のことを触れました。
この例のように、増築箇所を構造的に分離してしまうやり方というのは、一目見れば分離しているということがわかるような作りです。このような構造的に分離されている建物の耐震診断はその各々で確かめるための計算を行うことで評価ができます。ですが、耐震診断を数多く手がけていますと、必ずしもExp.Jをしっかり採用している事例ばかりではないのです。以下の画像をご覧ください。これは先日、耐震診断のための調査をおこなった住宅です。
一つ目の画像をみますと、ドアのところで「出っ張り」があります。耐震診断ではお住まいの方から事情などを聞き取る調査も重要なのですが、そのお話しの中で過去に増築したというお話しでした。そして、画像の部分のドアから手前側が増築されたエリアのようです。
ここで出っ張りがあるので、Exp.Jで分離されている!と思うかもしれませんが、もし、手前側をExp.Jで増築しているのであれば、1枚目の画像のドアの部分の「出っ張り」だけではなく、その壁面がずっと一直線に通ってる形になるはずです。そして、この1枚目の画像の奥側は「平屋」となっており、手前側は「2階建」になっているのです。以下の画像は、前述した箇所の2階部分です。
1枚目では右部分、2枚目では左部分の壁の入り込んでいる部分をご覧ください。違和感ないですか?なんとなく、廊下側の柱に沿えて2階の柱が建てられているように見えませんか?普通なら、この添えて建つ柱のラインがExp.Jだといえるのですが、1階ではその様子がうかがえません。1階の状況もこのような形で出っ張っている壁が連続的に続いているのであればいいのですが、先の説明のようにそうはなっていません。つまり、この2階部分の増築は、Exp.Jではなく、元々建っていた部分の柱、梁に直交する形で梁を架け、そこに柱を建てた「構造が一体化した増築」だったわけです。
増築側に基礎がないかも確認しました。画像の中央に風窓があります。このラインが元々の「外壁」だったところで、その奥側に増築した床がチラッとみえています。Exp.Jでつくられているのであれば、この風窓のところで同様な立上りが見えるはずですが有りませんでした。
木造建築は、大工さんによってフレキシブルに増築ができますが、その手法が、構造的に検証されたものばかりではなく、単に作りやすさだけで増築されている事例が数多くあります。よって増築行為があったとされる住宅の場合、その調査過程でどのような構造方式で増築されているのかをくまなく調査することも大変重要なことで、それを見極めるためには「どうやって作ったんだろう?」という視点で想像していく必要があるのです。