福井県では正月の能登地震を受け、令和6年度予算において「木造住宅の耐震化に関する補助制度」を拡充し、各市町を窓口として「耐震診断及び補強プラン作成」と「耐震改修工事」に対して補助制度を行っています。
耐震改修工事の補助額は、最大150万で補助率100%という力の入れようです。また、耐震診断及び補強プラン作成については、県のチラシでは自己負担最大1万円ということですが、福井市においては「全額補助」となっており「ゼロ円」で行うことができます。ただし、抽選となっており現在の申し込み数としては400を超えている状況で、そのうち60程度がやっと実施できたという状況です。
申し込みが多数の「耐震診断及び補強プラン作成」ですが、本来、耐震改修工事を行うことまでが補助事業の目標になっているのに対し、実際に工事を行う方は少ないのが現状です。これにはいくつか要因があると思いますが、大きく分けて2つあると思います。
① お客様が150万を超す工事費になった場合に経済的な事情もあり工事を断念するということ
② 耐震改修工事の補助金申請に伴う資料、工事監理が相当面倒であるということ
①はお客様の事情によるものです。確かに、150万の補助金内で出来る工事であればよいのですが、福井の住宅事情的には、規模の大きな住宅が多いこともあり、150万の補助金に対して、自費負担分が出てくることは否めない。ですが、②のほうはちょっと事情が違います。以下、その説明をします。
補助金申請は、その工事の妥当性というより、その工事に係る経費、すなわち、「耐震改修工事に関する経費」の算出と、その内容、及び耐震補強プランが全て一致している、裏付けできていることが求められます。
例えば、筋交いを増設するとなれば、その本数は何本であるか、柱や筋交いに金物を付けるのであれば、その個数はいくつか? また、解体を伴う場合にはその解体面積がどの程度あるのか?これらが、数量表(見積明細書)と図面が一致しており、かつ、耐震補強計算がその裏付けになっているということがすべて確認されるわけです。
ところが、工事着手前にくまなく調査したとしても、やはり壁や天井を解体してみたところ「想定と違う」ということは当たり前にあります。本来はそうならないように事前調査を吟味するわけですが、生活をしたままでの調査では壊して見れるところは限られますし、元より、確実に工事を行うかどうかについては、見積などを見た上で決定するとなれば、契約もしていないうちから本格的な解体を行うような行為はできません。
これは一例ですが、解体前の調査では、ドアの右横には柱が入っていると想定していました(当時の図面にも記載がありました)。ところが壁を開けると、想定していたところ(画像赤線)に柱はなく、右に910mmずれていました。
こうなりますと、実行時には、この箇所の耐力壁工事では「新しい柱」と「新しい筋交い」が当初予定より多く必要になります。実際にはこの箇所は、1820mm幅の壁を想定しており、新しい筋交いを2本だけ経費に計上しておりましたが、結果として「新しい柱1本」と「新しい筋交い2本」さらに、柱の金物が柱頭柱脚で2つ、筋交いの金物が4つ追加で必要になります。
これらは数量的、金額的な問題ですが、当然、変更内容を記載した図面が必要になります。
これらは年度末の「会計検査」で調査対象になりうりますので、当初はどうだったか?それがどう変わったのか?が、数量と金額の部分で精査されますので、それらがわかるように資料をつくることになります。
そして、これらの事柄は、当初申請された補助事業内容に対する「変更」となりますので、ここで「変更申請」が必要になります。さらに、その変更申請が「承認」されなければ、厳密に言えば工事を続行することはできません(この点はあくまでも書類上の問題でもありますので、工夫はできます)。
結果として、このような補助金申請に関する手続きの煩雑もあって、いわゆる業者側が「耐震改修工事」そのものに対して「面倒な仕事」という印象と、工事金額の割に書類関係の手間がかかるという印象が強いため、積極的に「耐震改修工事」を請け負うということを敬遠する傾向があることは否めません。