木造構造の基本中の基本

「木造の構造」というと難しく考える設計士が多く、結果として「木造の構造はわからない。だから鉄骨とか鉄筋コンクリート造で」という発想になりがちかもしれません。木造の構造の特徴は、細い柱を数多くつかって、上からの荷重を基礎に伝達するということにあるのですが、鉄骨や鉄筋コンクリート造と比較すると、 柱一本が受け持つことができる力の大きさが圧倒的に小さいということと、鉄骨や鉄筋コンクリート造では柱の大きさをある程度自由に大きくできることで、1本の柱でより強烈な力を受け持つことができるので柱の数は少なくてすみます。

ですが、柱の数が多くなれば、その配置と本数によって間取りの計画に影響が出てくるわけで、間取りをある程度自由に考えようと思うと、平面プランを検討する段階である程度力の流れていく方向などを見定める必要がありますので、結果として「木造の構造は苦手」という設計士が増えるのかなとも思います。

ですが、考え方はすごくシンプルなもので、「力の流れを考える」その基本さえ理解すれば、ある程度、自由度のある間取りの構成も計画できるのです。以下は、以前、「県産材を有効活用するセミナー」で使用したものですが、それを公開します。

「柱を立てて、その上に梁をかける」これが木造の構造の大原則であり基本なんですが、そのとき、柱に伝達される力はどのように考えるか?の具体例です。これは屋根からの荷重を受ける例なんですが、梁に影響があるのは、

 荷重が作用する箇所の下に柱がない

ときなのです。柱と柱の間に屋根からの荷重を受ける箇所がありその下に柱がない場合、その荷重は「すべて」梁で負担することになるわけです(画像中央部)。逆に、下に柱がある箇所に荷重が作用する場合には、梁でその荷重を負担することはありません(画像右端)。つまり、柱の配置間隔が長くなり、その間にバンバン荷重がかかるような状況をつくりだすと、要求される梁の大きさはどんどん大きくなっていきます。言い換えれば、屋根からの荷重を受ける点の下には柱を入れていけば、梁は小さくとも問題がないということになります。

ですが、間取りの構成や生活や仕事、作業のためには、柱のない空間は必要です。8畳の和室の真ん中に柱があったのでは、その空間を8畳間として使うことはかなり制限をうけます。ですので、広い空間が欲しい場合には、梁を大きくして上からの荷重を支えることになります。

この画像は、柱のない空間を大きく取る場合の構造の考え方の例です。1階に大きな空間を作り、2階には柱を設置して屋根の荷重を受けるという形になります。赤の矢印が屋根からの荷重、そして緑の塗りつぶしが床の荷重です。赤の矢印の下にも柱があれば、この梁は床の荷重のみを支えることになりますので、小さなものでも問題ないのですが、下の階に大きな無柱空間をつくるために柱が設置できないので梁は大きくなります。また、この2階の床を支える梁には、左右からさらに梁がかかっています。左右からの梁にも床の荷重がかかっているわけで、これが緑の荷重として作用します。つまり、2階の床の梁には結構気を遣わないと、荷重が集中することになるというわけです。

この画像のような場合には、大きな梁には梁をかけるための加工を施すことになりますが、これが集中すると結構、危険な状態になります。これが以下の画像です。

両側から梁がかかり、さらにその位置に柱がのると、この画像のような状態になります。このとき、梁の断面はかなりの量がえぐられることになります。これを断面欠損といいますが、一応、欠損量に応じて強度を低減して考える必要があります。ちなみにこの画像の事例ですと、65%の低減となるわけです。例えば180mmの大きさの梁だとすると、実態としては63mm程度の梁としか評価できないというわけです。

このような加工を大工さんがすると、如何にも匠の技としてすごいなぁと思う方も多いですが、このような加工をしても大丈夫な大きさの梁になるためには、この180mmの場合であれば、300mm程度の梁でなければ180mmの強度は出ないということになるわけです。

このような場合、欠損率を下げるためには、以下の画像のような「接合金物」を使うことがあります。

これは梁を金物で引掛ける形で接合しますので、受ける側の梁の欠損は非常に少ないです。ただし、この金物が最後まで取り付いていることが前提ですので、割裂など破損しない梁性能が必要になります。一般的には集成材を使うことが前提となるわけです。

この金物を最後に事例としてあげたのは、「全金物工法」という言い方で採用されている事例が多いためです。すべての接合箇所をこの金物を使いますが、その利点を「強度」という部分を強調することでアピールしています。確かに接合強度は、梁を加工するような形態よりも強いことは間違いないです。ですが、重要なのは、この金物を使う利点は強度というより断面欠損が少ないという部分なのです。断面欠損が少なければその分要求される梁の大きさも小さくなりますが、今度は、

 その梁の大きさでしっかり上からの荷重を支え、さらに、その荷重により梁が変形することを少なくする

ということを満足しているか?ということが評価されなければいけません。つまり、「全金物工法」を採用しているからといって、それだけで強度が保たれているというわけではないのです。この点は、「構造計算」でしか確かめることはできません。そういった計算がなされていない「全金物工法」による建物は、単にコストを上乗せしているだけの建物になりかねません。

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