国交省からの改正基準法に対するマニュアルで、先日、公開された「2024年9月第2版」で、衝撃的な変更があった「N値計算」。それをブログテーマにする#3ですw
前回は、計算式が公表された平成12年の改正基準法の内容に触れました。この際、説明された文言には、N値計算式の物理的な説明というものはほとんどありませんでした。その後、構造関係の法文に対しての解説書である「建築物の構造関係技術基準解説書」(通称、黄色本)には、平成12年の改正基準法講習会テキストより表現が、若干ではありますが、変化しています。ちょっと、そのページを抜粋します(スキャナーで分厚い本を読みこませたので、ちょっと粗いかもですw)。
ここのページでは、「2)告示の表によらない場合」として、N値計算式の説明がなされています。前回のブログで講習会テキストの内容に触れた際、N値計算式は、
告示中、表一及び表二は軸組の端部に取り付く柱に限定されており、中柱や例示以外の倍率の軸組を設けた場合等、これに当てはまらない部位については、次節4.を参照のこと。
とされていたわけですが、改正後の運用で、「告示の表によらない場合」として、すべての箇所の柱でN値計算を認めたわけです。これが「N値計算すると金物減るぞ!」ってことで、みんなが飛びついた経緯なんでしょうwww
さて、このN値計算の式の根拠ですが、法文解説書であるはずの黄色本にも詳しい説明はありません。しかし、よく読んでいただくと、
同表に揚げる仕様以外のものを採用する場合は、信頼に足る試験結果に基づいて得られた引張耐力を5.3で除した値を以下の算定式におけるNの値と比較する等の検討を行うこととなる。
と記載がございます。つまり、これは、
N=ΣAi×Bi-L
で求められたNの値に5.3を掛けた数値が算定される「引抜力」としているわけです。例えば、算出されたN値が3.6だとしますと、該当する柱に作用する引抜力は、
3.6×5.3=20.16 (kN)
っていうわけです。そして、その引抜力に抵抗する金物は、この20.16 kNよりも大きな耐力を有する金物を選定するという流れになるわけです。
これは、黄色本に記載の接合部の仕様表ですが、Nの値に5.3を掛けると、必要耐力の数値になることがわかります。さて、こうなると、この5.3っていう数字が気になりませんか?6でも5でもなく、なんで5.3なんでしょうか? ちょっと以下の図をご覧くださいませ。
これ、筋交いが取り付いたところを極々模式的に描いた図ですw 木造の耐力壁というのは「倍」という形であらわされることが多いのです。例えば、「2倍筋交い」とか「3倍筋交い」とかいう表現です。この値が大きいほど、水平力に対応できる耐力があるわけですが、これを「壁倍率」といいます。
壁倍率1というのは、壁基準耐力1.96kNと同等としているのですが、これは耐力壁の性能を決める際の実験試験結果から考えられている値と考えてもらえばいいです(厳密には、耐力壁上部に1.96kNを作用させて、その壁の変形が1/120radになる強さ)。
壁倍率1を基本として考えた場合、壁の幅は1mという単位幅で考えるとして、高さはどうなんでしょうか?実は、これが2.7mとされています。というか、されちゃってたわけです。筋交いに代表される耐力壁を考える上で、法律として定める際の前提条件として、この「2.7m」というのは、構造計算を用いない、いわゆる仕様規定上の簡易評価では、定められたときの「大前提」になっていたわけです(木造は、階高2.7mという決めつけw 風圧力に対する検定の床から1.35mは、高さの半分が影響する、つまり、2.7÷2=1.35ってわけですwww)。
そして、この図を元に考えますと、5.3という数字の謎がとけると思います。簡単な力のつり合い計算で、
1m:2.7m = 1.96kN:YkN
ですので、壁倍率1に相当する耐力壁の引抜力は、
Y = 2.7×1.96 = 5.292 ≒ 5.3kN
という結果になります。これは壁倍率1ですので、2倍であれば10.6kNの引抜力が想定されるというわけですが、耐力壁は連続で配置されているときやそうでないときがありますので、N値計算では、なるべく物理的な挙動に逆らわず、かつ、できるだけ簡易に引抜力を評価できるようにするために、柱の両側の耐力壁の倍率の差や、補正係数などで調整されているわけです。
さて、次回は、2025年4月施行の改正基準法での、N値計算の変更の本質に迫りますwww