耐震等級に対する無理解 その6(終)

前回に続きます。

そもそも論、耐震等級の評価にはざっくり言って、「スパン表」を使うこと、「構造計算」を行うこと、の2つの手法があるわけです。その3~5では「構造計算を行うこと」の過程で、耐震等級の評価を行うにあたってC0というものの割増しを行い、地震力の計算をして、その影響がないことを示すことで等級が認定されるという仕組みをご紹介しました。

SNSやYoutube動画などで、耐震等級について説明している解説などでよく言われるのは、「スパン表」を使って評価された等級と、「構造計算」を行って評価された等級では、

 「構造計算」 > 「スパン表」

的なイメージを紹介しているものが大半です。ここで「スパン表」に焦点を戻します。

まず結論を言います。「スパン表」は、その3から5までで説明した構造計算の過程をすっ飛ばすために作られた表ですwww

これ書くとなんだか、略算してるんか?とか良からぬイメージを抱くのではと思いますが、とんでもないのです。スパン表は、概ね一般的な住宅において、一般的に構造計画される手法を元に、一般的に架構される構造を想定して作られた、条件さえ当てはめれば梁や基礎の部材などの断面詳細などが「決定できる」非常に合理化されたものです。

重要なのは「一般的」という文言なのです。「スパン表」が作られる過程では、様々なケースの構造計算の「結果」を集め、その中の中心となるような「解」を集めて、多少の余幅を持たせるために安全側になるように計算結果を見直した結果を「表」にしたわけです。ですから「スパン表」がなんの構造的な根拠もないようなコメントを流している人は、その実を知らないと私は思います。

ですが、住宅設計においては、そのような画一化された構造モデルではお客様の希望や要望に沿うことができない可能性があります。スパン表を使うためには、構造部分でガッチリとした型がありますから、そこから逸脱した場合には、SNSやYoutube動画などで解説されているような「構造計算」>「スパン表」のイメージになってきます。

これは、スパン表のテキストに記載されている「横架材のスパン表のとり方」という、スパン表を使う前提での構造に関するモデル化の説明図です。

本来の形が(a)図です。注目してほしいのは、2階の床の梁の上に柱がのっている状況です。①の梁には中間部分に柱が立っています。N3と記載があるところです。本来は、①の梁に軸力がかかっています。③の梁はℓ3というスパンの長さなはずですが、これが(b)では途中の柱を無視してℓ3を階下の柱と通っているところまで延長しています。

スパン長が長くなっているので、③にかかる荷重は長いスパンで計算することになりますから「安全側」言い換えれば設計条件としてより大きな力がかかるように不利になるようなスパン長をとることで余力を大きくみているというわけです。これは、スパン表の説明にも書かれていることなのですが、


と記載があるように、原則として、梁の材端には必ず柱か、直交する梁があるという「前提」での計算結果を集めた表であるというわけです。これ、すごく大事なことで、実際には木造の構造計画では理想とされている内容です。ぶっちゃけ、経済的な設計に心掛けるなら当然の事といえば当然です。

ですが、そのような理想形でお客様のご要望の間取りが構成できるとは限りません。そうなると設計者は、3つの選択肢に迫られます。

 1.そんなの関係ねぇ!といってスパン表を強引に使う。
 2.お客様を「説得して」構造的な理想を押し通す。
 3.計算してみようってことで「構造計算」する。

SNSやYoutube動画などで言われる、

 「構造計算」 > 「スパン表」

というのは、この上記の3つの選択肢のうち、1.をとられることが大変多いことを示されているのです。スパン表の設計条件や適用条件をすべてクリアしているような構造計画であれば問題はありませんが、ご要望次第ではそれが「理想的な構造モデル」にはなりません。

そんなことをいいますと、まるでお客様のご要望が「悪い」といっているように聞こえるかもしれません。そんなことはありません。はっきり言いますが、上の3つの選択肢の中で、フレキシブルにお客様のご要望に対応できるとすれば「構造計算を行う」ということなのです。

それを明確に説明せず、「耐震等級3がご希望ですね?わかりました!」といって、自らに計算能力が皆無であることを棚上げし、強引にスパン表を使うという自称専門家が多く、その結果、本来スパン表が意図している性能が発揮できていない住宅が多いというわけです。

さて、ここでもう一つ触れておきたいことがあります。先日SNSで見かけた話しなのですが、

構造計算を行っている耐震等級1とスパン表を使った耐震等級3では、前者の方がマシである。

という話しです。これ、全くナンセンスな議論です。こんなことをSNSで垂れ流すのはやめていただきたいレベルです。

まず、耐震等級1にしろ3にしろ、等級を評価するためには第三者の評価認定が必要です。この手の議論をしたがる自称専門家は、耐震等級1を「建築基準法レベル」として等級無評価の住宅を指して、「そんな耐震性の低いもの」とディスることをします。正直、そんなことを言う人をディスりたい気分ですww

建築基準法に規定されている「仕様規定」というのは、ここまで説明してきた「スパン表」と同じレベルの話しです。数値化されているものもあれば、文言だけのものもあります。それらは、その1でも取り上げたように、基準法でも耐震等級の評価においても、想定している地震力の規模は「極めて稀に発生する地震による力」でしかありません。ベースにしている地震は同じなのです。

この想定した地震力に対して、まずは倒壊しないレベルの建物を設計させる、それを細かい計算をしなくともある程度担保できるものにする、これを目的としているのが「建築基準法の構造仕様」です。そして、この仕様は度重なる大地震によって都度アップデートされています。

次に耐震等級ことです。繰り返しになりますが、耐震等級の評価は、この地震力に対しての評価をC0という係数を1.0倍、1.25倍、1.5倍としている「だけ」のことであって、それは地震自体の大きさを割り増しているわけではないのです。ここを大きく勘違いしている自称専門家は非常に多いです。

また、構造計算を行って耐震等級の評価を行うことと、スパン表をつかって耐震等級の評価を行うことに「性能の差」を感じるような論調もその本質を理解していない証拠です。スパン表はスパン表を作るに時に想定している構造モデル、設計条件に合うように住宅設計を行えば、ほぼ構造計算をしたのと同じレベルの構造的評価は出てきます。なぜなら、構造計算した結果を体系的にまとめ、一般的な解を求めたのがスパン表だからです。

ただし!お客様のご要望などによって、スパン表が想定している構造モデルに必ずしも合致しないことが多いという現実があります。その際に、無理やりスパン表を使うようなことがあれば、そもそも想定外の構造モデルですので、スパン表が出した結果より要求される構造材の性能が高まる可能性はあるわけです。これが結果として「スパン表による耐震等級の評価」が「構造計算を行った耐震等級の評価」よりも低くでることになる原因です。スパン表が悪いわけではなく、単に、

設計者の判断が悪い


だけのことです。

お客様のご要望に応える設計を行うために、設計の自由度を上げれば当然、画一化された構造評価にはなりえません。でも、ケースバイケースで構造対応ができるのであれば、ある程度の構造規範があっても自由度の高い設計は可能です。本来それを「設計する」ことが設計者に課せられた責務だと考えています。






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